誰が為のオラシオン I


 神奈川県西部、小田原市。
 時おり地鳴りが響くのは、彼方にて第五熾天使アレクシスの権能が富士山を唸らせているからで。
 なればこそ、終末論者終鐘教会によるを決して許してやるものか。
 聖釘事件から続く、天使などというとの戦いに決着を。

 かくて小田原へ、連中の懐へ切り込んでいくレイヴンズを。
 ――待ち受けるは悪意の獣、オラシオン邪悪な祈り

(あぁ、でも、ほんと……すごくいやだ、これ)
 大切な人r2p001218の姿を取るに、立花 椛(r2p001244)の瞳孔がキュウと細くなった。
 悪意の獣。悪意の祈りオラシオン。嗚呼、全く以て――これは悪意だ。
 Nýx武器を握る。心火を燃やす。大事なひとに手をかけるような錯覚に呑まれそうになる。――それでも。乙女は暴威を振りかぶった。
靄が人を喰う……昔なら『何を言っているんだお前は』だったのだが。
 『厄介な、どう倒すか』になったのは、思えば遠くに来たものだ)
 血の臭いがする。人を喰う化け物へ、柏木 清志郎(r2p000956)は忽一刀やいばを突き立てる。天使が相手でも、何が相手でも――成すべきことは変わらない。
 悪意が渦巻いている。聖釘と呼ばれた災厄は呪いを芽吹かせ、絶望へと育ってゆく。
 それに絡め取られ、堕ちてしまいそうな者がいるならば
 小庭月 灰色(r2p000076)は助けたいと思った。助けたいと願った。
 だから、護るべき命を護るべく奔った。
「助けに来ました」
 もう大丈夫ですからね。静かに、そして優しく、は微笑んだ。

 ……終末論者の消えた空っぽのステージ。激戦の疲労感に、リザ・アレクサンデル・雨夜(r2p000363)は息を吐いた。
「聖釘……ほんとやばいっていうか、なんであんなの使っちゃうんだか」
「もっとさぁ、なんかこう、色々あるじゃん? 聖釘も然り、天使信仰もしかり……」
 通信機越しに顔をしかめているのは蓬莱 ルカ(r2p000660)だ。はいはい。天使の救い救い。――それでも本気で信じてしまっているのなら、こちらは手加減などできなくて。
「滅びたいなら、自分だけで滅んでほしい」
 静けさを取り戻した戦場に勝者として立ち、ユゼ・ウィンレイ(r2p007059)は倦むように言う。終末論者に想うのはそれだけだ。手にした軍刀の刃にの血が滴ってゆく。
「生きるための戦いに、善悪なんかあってたまるか」
 おまえがそっちを選んだ。自分の意志で。そうだろう?
 一方で霞流 みぞれ(r2p000222)にとって、終鐘教会やつらが何を考えているかなんて興味もなければ意味もなかった。
ここには命と誇りをかけて任務を全うしようとした仲間がいる。……なら、十分過ぎる理由だね」
 小田原も然り、御殿場も然り。命を懸けて、未来の為に、希望を信じて進む者の気高さを、眩さを、美しさを、みぞれは知っている。
 エミリア・マクロプロス(r2p003477)もそんな一人だ。「ただ平穏に生きる」、そのささやかな願いを叶えるために懸命に生きて戦っている。
「我らは命を繋ぎ、絆を編み、希望を紡ぐ者。
 絶望の闇に、希望の灯を掲げよ。
 恐れるな! 我らの歩みが暴虐に抗う狼煙となろう!」
 勇気を。希望を。泥臭くても声を張る。理不尽で最悪な物語に終止符を
 ――別の戦場で、透き通る光が煌めいた。
 きら、きら。瀬那 悠月(r2p000299)の目の前で、砕けた聖釘が宙に舞う。
「話を、しましょう」
 誰だって、幸せを願って生きている。悠月が今、聖釘を破壊した男だってきっとそうで
 悲しい話は、できるだけ見たくはない。
 ――それでも、悲しい終わりになってしまった物語が、あるのなら。
 せめて最後は誠実に。
(どうか、安らかに……)
 人であった者の眠りに、月朱(r2p005620)は心を込めて
 悪意にまみれた獣ではない、真に正しき『祈りオラシオン』を、成す。


⛄ウィンターボイス2025⛄

シーズンテーマノベル『鶫は鳴いていたか』

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