誰が為のオラシオン II
小田原に尚響くは戦いの音。
「――ふッ、!」
王生 暁兵衛(r2p000501)が振るう鬼燐刃‐凍夜叉‐が轟と唸る。澄んだ氷は煌めきを散らし、終末論者共を殴り飛ばす。
白い息を吐く鬼の唇は奴らの血で濡れていた。その勇猛は暴威なれど、彼らの命を奪わない。白い手の甲が口元を拭った。
「ごちそうさま! おかわり!」
「……対象確認、バレル展開。前衛の支援を開始する」
同刻。イオニアン(r2p005909)は武装にエネルギーを込める。機械の眼差しが捉えるは悪意の獣。小田原城に巣食うという繭に餌を与えてやるものか。放たれる光が、戦場に奔る――
「それでも道は分かたれました。私はマシロ市の未来を守り抜く」
生こそが、死んでもいいとさえ思えるものを見つける為の旅路なら。
絵空 白紅(r2p000568)は、選んだ道に悔いはない。
ゆえにこそ、この悪意の輪郭を取る獣へと永訣を告げよう。
全てを守りきることはできない、そんなこの手でも――支えたい人がいるから。白紅は筆を奔らせる。
――志を支える花よ、咲き誇れ。
そう、大切な人との思い出は。
白百合のおもかげは、百合垣 純哉(r2p002190)の胸の中に。
だから目の前にいるあれは――自分の母親ではない。あれは、悪意にてひとを愚弄するけだものだ。
だから、凛と。今はあらゆる思いを押し込めて、真っ直ぐ、咲き誇るように――
「私が皆を守る盾となり、敵を穿つ槍と、なります……!」
駆ける。
「天使と仲良くできるんだったら、あの日、アリ姉は死ぬことはなかったし――あたしのこの腕も人間の腕のままだったのよ」
アデル・Ⅰ(r2p000632)の心に焼き付いているのは、大破局の日に遭遇したとある天使――繰り返す後悔はいつも、「あの日のあたしが甘かったせい」。
「だからあたしは、天使と仲良くなんて信じないの。
……その判断を間違えたら、あたしだけじゃなくて多くの命を危険に晒すから」
連中が掲げる終末に、厳然と「NO」を。挿げ替えられた腕に握りしめる刃を――突きつける。
「聖釘は玩具じゃねぇんだ、それを出すなら命を懸けろ、それを出すってことはボク等との殺し合いを望んでいるとの宣言に等しいのだからな!」
久雲 陽子(r2p000019)が振るう呪妖刀【狐斬】が、狐火で作られた数多の刃が、憎き終末へと襲いかかる。
遠慮も。躊躇も。一切しない。慈悲はない。陽子にとって、小田原の向こうにふるさとがある。邪魔だ。退け。手羽先に付いた戯け共が。退け。退け。退け!
「こんな胸が悪くなるような場所、跡形もなく焼き払ってしまいたいぐらいだわ!」
力強く、勇ましく。ウルリーカ・ニルスドッティル=光明院(r2p003861)の唸りと共に、灼熱の獄犬は牙を剥く。巨大な大斧は嵐のように、天使をオラシオンを木っ端微塵に粉砕する。
なにが祈り。なにが奇跡。天使や終末論者がどんなおためごかしを口にしたって、力なき者を騙した事実は隠せない。
「この一撃、怪物にされた皆の怒りだと思いなさい!」
ここはきっと、理想を騙る悪意の果て。
「理想も悪意も、僕にはどうでもええ。障害を排除する。それだけや」
見えざる爪が金切り音を奏でた。一刀両断に砕かれたライドラが、当真 暁斗(r2p000997)の足元に転がる。暁斗は命が潰えた肉塊から空へと顔を上げた。白い羽ばたきの残滓だけが、そこに舞っている。彼はただ静かに、そこを見つめている。
しからば大地に残るのは悪意か、殺意か。
それでも神代 風生(r2p001741)は人間だから。……人間だから。人間同士で戦うことには気が進まないし、その者がまだ間に合うのであれば、そうなってほしいと願う。
「ちょっと痛いけど我慢してね……!」
風を纏う。風を繰る。人間だから。お互い同じ、人間だから。
――ハッピーエンドを、祈るのだ。
そんな想いの、結実の一つ。繋がれた命を、その小さな背中を、イサゴ(r2p003967)は何とはなしに見つめている。
天使は人には戻れない。だが、人は道を引き返すことができる。
彼女はこれからどう生きるのだろうか。……とはいえ、ここから先は彼女の物語だから。
「さて、……」
そんな物語が、人類の物語が終わらぬように、引き続き戦うのみだ。
それは不破(r2p004930)も同じくだ。絡繰り人形の瞬きのない眼差しは、じっと――彼方、小田原城の方角を見つめていた。
かの地の戦いは今どうなっているのだろうか。いずれにせよ、不破の成すことは変わらない。不破は兵器である。戦って、戦って、戦って――そうして、戦い続けていく。

