明るい未来を見据えて
「九相寺さん、ちょっといいか?」
「ん? どうしたんだい銀四郎君」
「おっと、八王寺もいたのか。仕事の邪魔したか?」
「いいや。丁度報告が終わったところだ」
『ガンウルフ』野分 銀四郎(r2p000278)の呼びかけに、『横須賀キャンパス長』九相寺・大志(r2n000122)と八王寺・美澪(r2p007720)が振り返る。
刻陽学園横須賀キャンパス。
クラーケンの問題を受けて普段より騒がしいこの場所で、この三人の組み合わせは珍しいものではない。
何しろ大志はキャンパス長で、銀四郎と美澪は実技担当教員。
横須賀寮でも顔を突き合わせる仲ともなれば、勝手知ったる……といった関係とすらいえよう。
しかしながらこの三人には横須賀キャンパス開校当時からの「もう一つの役職」が存在していた。
「POSEIDONのことが表に出て来ただろ? 問い合わせもちょくちょく来てるみたいでな」
「ああ、確かにね。裏で進めていた計画ではあるが、このタイミングで、とはね」
POSEIDON。特務部隊POSEIDONと呼ばれる部隊のことである。
それはいわゆる「特殊任務実行部隊」のことであるが、その名前から想像するような危険な任務を行う部隊とは別物だ。
むしろ、未来志向の実験部隊という側面が強いだろう。
司令官は此処に居る大志であり、レイヴンズとして、キャンプ・パールコースト所属として先任士官のような形で銀四郎も所属している。
そう、POSEIDONはキャンプ・パールコーストとK.Y.R.I.E.の協力で作られた部隊であり、主に横須賀を起点とした「海」方面への任務に従事する部隊だ。
「といっても秘密部隊ではないんだがね……」
「あはっ、裏で進めてたってとこだけでいえば秘密部隊なんじゃないですかー?」
パシャッと写真を撮る『偵察部隊員』東宮 真琴(r2n000124)に言われて大志は「そうかもしれないね」と苦笑する。
実際、もう少し時間はあるはずだったのだ。
それが、まさかレイラインが乱れてクラーケンが目を覚ますなど!
いや、それを言っても仕方がないことは誰もが分かっている。
「で、ついでにインタビューに来まして。教えてくださいよ、POSEIDONのこと!」
「ああ、報道委員会だっけか……」
頬を掻く銀四郎に真琴は「ですよー」と微笑むが、まあこれを機に大々的に周知しておくことは必要だ。
「まあ、難しい話じゃない。連携力をより高めるためのものだからな」
そう、連携だ。
しっかりと武装したパールコーストのナチュラル軍人の力は、今まで何度も示されている。
だがレイヴンズとの連携が完璧であるかと言われれは疑問符はつくだろう。これは今現在だけではない、未来をも見据えた話だ。
「だから、構成としてはパールコーストのナチュラル軍人と、K.Y.R.I.E.の能力者の連携を意識した混合部隊となっているわけだね」
勿論、この計画に関わっているのはK.Y.R.I.E.とパールコーストだけではない。
対天使装備の製造を担うKPAと軍事的協力し、自衛力を上げたナチュラル部隊に能力者が加わることで特務部隊という形になっているわけだ。
この計画自体は横須賀キャンパス設立時から始まっており、KPA実験室ならびにアガルタ分室も装備の製造、素材の選定などを行っている。
機動防衛浮島アイギスといった防衛兵器も、そんな努力で出来上がったものなのだ。
「へえ、じゃあまさに色んな組織の全力っていうわけなんですね!」
「そうなるな。とはいえ……時間が足りていないのは事実だが」
真琴の言葉に、しかし美澪は少しばかり悔しそうな声をあげる。
そう、時間が足りていない。
本来であれば、もっと訓練して、もっと装備を拡張して……出来ることはたくさんあったはずだ。
光の領域の精霊たちの協力も得て、それは万全を超えるはずだったのに。
「澪君の言う通りだ。しかし、時間はいつだって足りないものだ。私たちは、私たちに出来ることをしなくてはね」
「……はい」
そう、いつだって完璧とはいかない。
けれどそれでも、出来る限りのことはしてきているのだ。
そして特務部隊POSEIDONとは、まさにそんな事態に対する、「より良い未来を作る」ための部隊なのだから。
脅威に対抗するための装備を纏い、未来を切り開く。
その理念の下に、今後の士官候補生となる学生や、先任士官のような形としてパールコーストにも籍を置く能力者も存在している。
より強く未来を切り開くための実験装備の運用なども担っており、そうした実験部隊としての側面も持っているが、以前お披露目された試作精霊機関も、まさにそうというわけだ。
「んー。ところで、ふと疑問に思ったんですけど」
「なんだい?」
「たとえば、私がPOSEIDONに入りたいですー、って言ったら受け入れてもらえるんですか?」
「それは当然だよ」
真琴の問いに、大志はいつも通りの慈愛に満ちた笑みを浮かべてみせる。
「断るなど有り得ない。何しろ、出来る訓練はたくさんあるのだからね。熱意ある人の志願はいつだって歓迎しているさ」
「……九相寺司令。なんか入らない顔してますけど」
「あはっ。まあ、私は偵察部隊からの出向ですので」
「だろうと思ったよ」
「君はそれが一番いいんだろうね」
銀四郎と大志が笑い、美澪が溜息をつく。
この横須賀キャンパスにはそんな風に色々な顔を持つ人たちが居て。
その誰もが……明るい未来を、見据えている。

