命空骸戯


 ――さあ、命空骸戯カタルモイを始めようか?

 あまりに楽し気に、その男が言うものだから忍海 幸生(r2n000010)は思わず「なんて?」と気の抜けた声で問い掛けた。
「ははは! そうだ。ああ、突然、格好つけて言われてしまったら驚くだろう。
 私も、そう、驚いた経験がある。有鱗目アガマ科に分類されるトカゲであるエリマキトカゲが威嚇をするときに襟飾りを広げるらしい。まさしく、そんな姿だろう」
 あまりに派手なサングラスをかけた天使は幸生へとそうウィンクした。
 幸生は思わず後方へと下がる。理解不能の天使だ。フレンドリーに語り掛けてくるかと思えば、その一方で勝手な物言いでとやらに参加しろと物申す。
 幸生は己の腕に嵌められているブレスレットを見た。手枷と彼は呼んだが普段、彼がマシロ市で身に着けているアクセサリーにもよく似ている。
「ああ、気に入ってくれたかな? それはデバイス。このゲイムの参加証明であり、君達の身元の証明であり、でもある。
 このゲイムの参加者は皆、そのデバイスに縛られる。君達だけではない。向こうに町田のサーカス団見慣れた集団がいるだろう?
 彼らもまた、同じようにデバイスを身に着けている。つまりね、天使も、誰も彼も、同じ条件でのゲイムになる」
「そこだけ公平性を取ったって、勝手な事を言って参加させている事には違いがないだろうに」
 幸生とタラリアがゆっくりと振り返る。その先には美しい紫陽花の精を思わす娘が立っていた。
 唐傘を差したの娘がタラリアをじらりと睨みつける。幼くも見える彼女の腕にもやはりきらりとデバイスが光っていた。
「ああ、これは失礼? 旧展示場要塞の主様」
「それはわらわではなく桜叶だ。わらわはただの尖兵でしかない。
 それで? ゲイムマスター? にこの地を設定したいとだけ聞かせて貰おうか」
 鋭く問い掛けた百鬼 奈鬼羅(r2p008412)にタラリアは「もう知っていたか」とおどけたように肩を竦めた。
決戦レイドバトルではないさ。それにためのゲイムだってスタートをアナウンスしていない。
 今現在、フィールド全土を紛争地帯に設定し、チュートリアルを始め乍らゲイムを知ってもらおうとするこの優しさを分かってもらえないとは」
 ゆっくりとタラリアが彼女へと近付いた。背丈が低く、いたいけにも見えたの娘が眉を顰める。
「つれないな」
「それ以上、近づくのは控えて貰っても良いですか? タラリア。
 私たちはに拠点案内をして、ゲイムルール説明の義務があります」
 後方に立っていたのは可愛らしいランドセルを背負った小さな少女だった。纏うのは楚々なる空気、春めく気配を宿した彼女は深く息を吐く。
「説明がなされなければ困るのはそっちじゃないんですか?
 K.Y.R.I.E.が……が簡単に負けてしまわない様にって、ゲイムマスターが特権の様にこの拠点をくださったんでしょう?」
 桜叶(r2p008406)はタラリアの気紛れでもあるだろうサービスの拠点贈呈に対して不快感を表しているかのようだった。
 彼の側にも何等か目的がある。ここでK.Y.R.I.E.がゲイムを勝ち上がり――願望器を手に入れたならば、天使である彼らには利がない筈だというのに。
(……確かに、何を考えてんだ……? こっちがそれを手に入れたら天使に対する決戦兵器になるかもしれねぇってのに――)
 じっと見つめる幸生の視線を受け止めてから桜叶は「任せて」と囁いた。
「私とニイナがゲイムルールについて説明するので帰ってください。……面倒なルールなんですから、人にはそれを咀嚼する時間も必要なんです」
「そうだよ! そうそう! だから、帰ってね、こっちは忙しいから! ほらほら、またあとでね、タラちゃん!」
 拗ねたように言う志佐島 ニイナ(r2p008403)に追い返されていくタラリアは「じゃあ、」と楽し気なウィンクを一つ残してその場を去った。

 しん、と静まり返った時間が過ぎる――小さな咳払いをした桜叶は能力者達を見回した。
「ごめんなさい。突然。私たちは、タラリアが皆さんに拠点として与えたこの旧展示場……これを改装して作られた管理人アドミニストレーターです。
 ええと、あなたは……そう、能力者さんでしたね?
 このゲイムは強制的に参加者を弱体化しています。全員、誰彼構わずです。
 ただ、時々そうした効果を受けていないであべこべの能力チップを事前に貰っている参加者もいるようですが……」
 桜叶に「ずるだよね」とニイナが頬を膨らませた。やれやれと肩を竦める奈鬼羅は「さて、ここは紛争地帯に指定されている、ひとまず中へ」とそう囁いた。
「それから、詳細は端末から確認していただければよいのですが……。
 簡単に言えばこのゲイムは、チップを掛け金にして参加し、チップを集めながらエリアを攻略していくそうです。
 どのエリアを回るのかも皆さんに一任されますが……タラリアはまずはチュートリアルとしてこの地での戦闘を私たちに義務付けたようですね。
 ゲイムルールは彼からのアナウンスもあるそうですが――……忌々しい事に、ルールページをこちらに与えていきました。
 見てください! この用意周到な! どこまで楽しく準備をしたって言うんですか! 本当に!」
「ま、まあまあ……タラちゃん、ゲイムエリア内ではを殺すとかしなかったから、本当にルールは守ってるよ」
「そうですけど」
 膨れ面の桜叶はかつて展示場として使用されていた建物の中に入っていく。
 あなたはその背に付いて行き――そして、起動されたそのをじっと見つめるのだ。
「これが、旧展示場要塞システム。皆さんのゲイムをサポートする端末です。
 少しだけ、触ってみてください。
 大丈夫です。怪しくありません。だって……ほら、
 つまり、貴方方が負けると、私たちも死ぬんです。一蓮托生。だから、安心してください、ね?」
 どうやら彼女たちとは運命を一とすることになりそうだ。
 一先ずは、その言葉に従い用意されたを確認してみようか――


命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール