チュートリアル・オーダー


「状況は分かった? とは言い難いですよね、本当に……」
 命空骸戯カタルモイルールブックは能力者達へと与えられた現状把握への近道ではあったのだろう。
 桜叶(r2p008406)に言わせれば「デバイスの参加料チップを使ってエントリーをして、しばらくは自由行動。人数が揃うとバトルをすることの繰り返し」だそうだ。
 ただ、その進軍先決定にはこの旧展示場要塞に搭載されているシステムでので行われるそう、だが。
 システムにはアップデートファイルが走り、起動が行われ始めたばかり。未だ全員のデバイスからそちらへのアクセスは叶っていない。
「一先ずはタラリアから与えられているこの情報を確認して準備を整えるべき、でしょうか」
「そう簡単な話ではないのだ。さっき、あのゲイムマスターに詰め寄ったが……。
 今、この場所は紛争地帯に設定されている。つまり、参加者が集まると何時決戦レイドバトルが起こってもおかしくはない。
 ビギナーだけを集めているとも聞いた。奴の考えそうなことと言えば練習試合だなんだという事かもしれんが――」
 忌々し気に呟く百鬼 奈鬼羅(r2p008412)に嘉神 ハク(r2n000008)は肩を竦めた。
 成程、彼方はK.Y.R.I.E.にそう猶予を与える気はないのだろう。ルールを簡単に確認したらとでも言いたげだ。
「コスモスの事もあるから、そんなに時間をかけたくないのかもね。
 ……聞いた話だけどね、カブキチョーのプシュケーも参戦準備してるみたい。あと、終鐘教会とか、他の天使だって……」
 志佐島 ニイナ(r2p008403)はこそりと耳打ちするように言った。各地では天使たちの動きが見えている。
 この旧展示場要塞から外を見遣れば、港区に立っているという東京のランドマークたる電波塔がへし折れ、その上にが棲んでいる様子までも見えた。
「……もいるしね」
 ニイナの困り切った言葉にハクは「問題は山積み、と」とそう呟いてから起動されていたシステムに目をやった、その時。

 から声が響いた。
aaa bbb
「能力者~? 聞こえるかい。そうそう、私だよ。
 ゲ・イ・ム・マ・ス・ターのタラリアだ。マイクチェックがてらに聞いてくれるかい?
 ヒラメという魚がいるだろう。カレイ目カレイ亜目ヒラメ科の、そう、左ヒラメに右カレイのヒラメだ。
 あのヒラメの黒目はね、ハートの形をしているらしい。チャームポイントだね! 素晴らしい。うん、聞こえているようだ。嫌そうな顔をしている!」
 この悪趣味なゲイムの主催者である第九熾天使麾下天使タラリアの声であるのには間違いがなさそうだ。

 ――さァ、ゲイム参加者の皆様! 漸くこのゲイム参加者で最も注目されているチームが到着いたしました!

 何を言っているのかと、そう言いたくもなった。能力者を含むK.Y.R.I.E.のことをそう呼んだに違いはない。
 先ほどより広域に、東京23区全てに響くその声はからのものなのだろう。
 このゲイムは命空骸戯カタルモイ。願望器と呼ばれるコスモスを賭けて無数の陣営が戦い続けるというものだ。
 簡便なルール説明が彼から行われていく。コスモス、万能の卵と呼ばれるそれには様々な尾鰭が付いただろう。
 天使の位階が上がる? 強化される? 時間を巻き戻せる? 何処までが真実であるかは分からない。
 だが――事は確かであるらしい。
「彼は確かに言っていましたね。
 ……今現在のコスモスの所有者の名前は。主天使である彼女の権能はすべてを失せてタブラ・ラーサは……塩化の能力だそうです。
 所有者であった彼女の権能はコスモスによって強化暴走し、川崎市などを覆う死塩の領域となった、と」
 ハクのその表情は変わらない。何の感情もそこにはないという様な、無機質さだけを感じさせている。
 彼の型には使役精霊カーバンクルが佇んでいた。タブレット・デバイスを利用して精霊使役を行う術士である彼は能力者達を見回す。
「僕達の目的は、あのコスモスの暴走を止める事です。タラリアの話がどこまで本当であるかはわかりません。
 ですが……が他の手に渡る事は何としても阻止したい」
 第九熾天使、第八熾天使、終鐘教会に、天使達、そして東京に出入りする能力者や終末論者と、それを狙う手は多い。
 何処に卵が渡ったとてK.Y.R.I.E.にとって幸運な事にはなりやしないだろう。
 と言いながらK.Y.R.I.E.到着直ぐにこの地を紛争地帯に指定し逃れ得ぬようにしている所も悪辣だ。
「……一先ず、迎撃態勢を。彼らがこちらに仕掛けてくるようですから。ここは何としても耐え凌ぎましょう」
 自身らの後方には拠点として与えられた旧展示場要塞がある。ハクは管理人を名乗った少女たちと共に統一デバイスを護りきる義務がある。
 此れから、このゲイムを進めるために――あなたもそうしなくてはならないのだ。

 ――さあ、ゲイムを始めよう! チュートリアルだ。
 今、この戦場の全員には天使も人間もアザーバイドも何の分け隔てもなくデメリットが与えられている。
 存分に戦ってくれ。大丈夫、安心してくれ。チップが残って居れば死なないさ。1枚もなくなったら? さあ、それは保証しないけれどね――




命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール