盗賊ロール


「……と、言う訳でパーティが始まったみたいだぜ?」
 相変わらずの不遜な態度は変わらずに、集めた天使達を見回したのは言わずと知れた『崩天』――敵にしても厄介だし、共闘相手でも厄介な主天使ドミニオンミハイルだった。
「随分とまあ、じゃないですかい」
「人生はハプニングの連続って言うだろ?」
「人間じゃあるまいし。歩道にダンプで突っ込む方の人がそれ言いますか」
 惚けるミハイルにシャルルは微かな苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
 先のLost Arアレクcadia Vシス戦から数か月。
 で熾天の宝冠を逃したミハイル一派はこの所なりを潜めていた訳であるが……
「……………」
 そうしなければいけなかった理由の方は、実は眉根を寄せるノヴィアの顔を見れば明らかであった。
「……もう大丈夫なの? ミハイル」
「いや、ハッキリ言って全然大丈夫じゃねえな」
「……っ……」
 あっけらかんと答えたミハイルにノヴィアは面白い位に分かり易い反応をした。
 熾天使アレクシスの一撃を受けたミハイルはこの数か月、調に苛まれていた。出力が以前程に戻っていないのだ。中途半端と言えど、ミハイルに匹敵する天使等そうは居ないのだろうが、彼が万全でないのは確実である。
「それならもうちょっと休んでないと――」
「――休んで戻るならそうするけどよ。何せあの猊下の仕業だからなア。
 お前達も、ジーラエマヌエルも、サレリアデプスも……
 有難迷惑も含めて随分熱心にしてくれた以上は、なあ」
「本当に! しつこい男って最悪ですわ!!!」
 それでも回復は成っていない。
 溜息を吐いたミハイルにノヴィアは言葉を失い、ベロニカはぷりぷりと怒り始めた。
「早く死ねばいいのに。死んでましたわ。成仏しさらせですわ!」
「お前見てると力が抜けるような元気が出るような複雑な気分になるね、どうも。
 だが、まあ――無理無茶だからこそ頃合なんだろうよ。俺の場合は」
「ミハイル……」
 野望を糧に自由に生き続けてきたミハイルは泳ぐのを辞めたら死ぬ回遊魚のようなものなのだろう。同時に彼は地上でラグナロクが始まったこの期に及んで長い時間を雌伏に使う気自体が更々ないらしい。
「ノヴィア姐さんのジメジメ劇場は後でお二人でして貰うとして。
 ともあれ、旦那がこうして兵隊集めたって事は、動き出すって事ですよねえ!?」
「やっとかー! 待ちわびたよ、ミハイル兄!」
 揶揄したエルドリッジイードルにミハイルは「一応な」と微妙な応じ方をした。
「何か歯切れが悪くねえすか?」
 問うエルドリッジにミハイルは「だからなあ」と頭を掻いた。
命空骸戯カタルモイだっけ? 願望機コスモスは不調でなくても魅力的ではある。
 まあ、ラグナロクが始まった以上――熾天使が居ない戦線チャンスは逃がせねぇ。
 ただな。タラリアクソ野郎が糸引いてるってンなら、バカ正直に参加するのは悪手かもな」
「……と、なるとー?」
 小首を傾げたイードルにミハイルは言う。

 必要なのは勝利の果実を戴く事。まあ、その手段がゲイムしかねえなら是非も無し。
 だがなあ、どうせあのクソ野郎、後出しで色々ルールくっつけてくると思うぜ」
「付き合い長いんで?」

 シャルルの言葉をミハイルはすげなく切り捨てた。
「だから、当面は様子見だな。命空骸戯カタルモイを見極めて、をする。
 まあ、ゲイムなんて無視して最後にコスモスをかっぱらう、とかもアリだろ?
 その場合、ロールは盗賊になるのかな?」
「ふぉれはひいあいであだね!」
「そう。いいアイデアだ。
 そういう計画性は俺の昼飯を目の前でくすねてる羆にも見習って欲しいね」
 そう言ったミハイルがヘッドロックしたノエルカの頭を拳でぐりぐりと抉っている。
「いたいたたたいたい! ひどいよ、ミハイルちゃん!!!」
「まあ、だから当面は――一速ローギアで。
 ただ、準備が出来てませんは勘弁しろよな?」
 ミハイルは悲鳴を上げるノエルカを構わずいびりながら最後に顔を背けるノヴィアを自身の方に向き直らせて言った。
「……いいから。俺を信じろよ。なあ?
 上手くやったらステラチャンがいい声で鳴きそうだし」
「信じ切れないのは……他の女の話をするそういう所よ」


命空骸戯カタルモイに注視する者達があちこちに居るようです……


命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール