ランブリングゴッデス


 殴打音(ぐしゃ)。

 東京の壊れたアスファルトに赤色が散った。
 だらだら血を流して痙攣している少女天使を、別の少女達の影が取り囲む。
「え~~~ザッコ! ウケる~~~」
「エグ~」
「やば~」
「ウケる~」
 くすくす、きゃらきゃら。
 どれもこれも未成年の少女達。短いスカートにぱっちりおめめ、揺れるふんわり巻いた髪、安っぽいけど甘いにおい。いわゆる――ギャル、と呼ばれている者達である。
 そんな少女達の真ん中に、ひときわ派手な少女がいた。見るからにリーダー格である彼女は、『ココ』という名前でこのカタルモイにて悪名を馳せていた。
「ザコすぎてウケるんですけど。じゃあポイントはもらってくねー♡」
 ココは無邪気に笑って、倒れた天使の手首――デバイスがつけられている――を握る。
 ひゅ、と倒れ伏している天使は目を見開いた。彼女のいでたちはココ達とは正反対に、清廉なシスターといった趣で――常であれば純朴な美貌を称えていたろうかんばせを、彼女は恐怖で歪ませた。
「やめ、」
 て、まで言えなかった。ココは小枝でも折るかのように、嫌な音を立てて彼女の手首を握り潰した。血だらけの口から走った悲鳴の不格好さに、取り巻きのギャル達が「ウケる」「ウケる」と手を叩く。
「ま―― 待って、待ってよ、ッ!」
 涙と鼻水にまみれて声を震わせる天使は、デバイスを手にしたココへ残った方の手を伸ばす。
「それ、は、第三熾天使(おかあさま)の為の、たいせつな――」
「は? うっさ、きも」
 ココは鼻で笑った。それから取り巻きの仲間達へ目線をやって、
「ねえ~誰かこいつ押さえててよ、あっちのビルまでシュートすっから」
「きゃはははは! やばすぎ~」
「エグ、ウケる~」
 似たような言葉を繰り返す少女達は、ココ(リーダー)の言う通りに敵の少女を踏んづけて押さえつけた。その間にココは、笑いながら助走をつけるべく距離を空けている。
「っしゃ~~~~いくぜいくぜ~~~」
 ココが走り出す。これから自分の身に何が起こるのか理解してしまった天使は、踏んづけられた足の下でどうにか藻掻いた。だけど――ココに散々壊された体は、言うことを聞かなくて。その間にもココが、へらへら笑いながら迫ってきていて。
「ちょっと――待ってよ、こんなの嘘、だって、わたし、私はおかあさまに幸せになってほしかっただけなのになんでこんな待ってやめてよやめてよやめてよいやだよしにたくないおかあさまたすけ」

 しゅーと(笑)。

 飛んでった頭だったものが、向こう側のビルに「くちゃっ」と音を立てて、赤い痕を残した。
「いえ~~~~~い」
「ヤバ~~~~ウケる~~~~」
 ココとギャル達はきゃいきゃいハイタッチをして、最初から最後まではしゃいでいた。
 ただ、その中で一人だけ、周りに合わせて笑みを浮かべながらも冷静な少女がいた。パンクギャルの風貌をしたマリリというその少女は、ココ達のグループのサブリーダーのような立場であり――
(あれって第三熾天使……アレクサンドラの手下とか名乗ってたよね。手ぇ出して大丈夫なのかなぁ……)
 このカタルモイに第三熾天使麾下の騎士、ジークリンデ(r2p007413)が参戦していることは知っている。今ココが蹴っ飛ばしたのは、大方ジークリンデにくっついてきた下っ端なんだろうが……
(ココちゃんとジークリンデが殴り合ったことあるのは知ってるけどさあ……)
 かといってことさらに相手の敵愾心を煽るのは得策ではないのではないか、マリリはそう懸念する。カタルモイの決勝戦も近付き、残っているのはどれもこれも曲者揃いだというのに……。
「あのさあ、ココちゃん。うちらって野良じゃん?」――そんな言葉を言おうか言うまいか、マリリは長い睫毛の奥からココを見つめた。視線に気づくココが振り返る。いつだって彼女は笑顔だった。世界がこんな風に、壊れてしまう前から。
「どしたマリリ」
「や、えと」
「――もうすぐだねっ!」
 ほっぺたに返り血をつけたまま、ココは天真爛漫に笑ってマリリの手を握った。
「決勝戦!」
 そう。決勝戦。カタルモイの。勝てば何でも願いが叶う……だとか、言われている、けれど。

「ねえ――もうすぐ、うちらは永遠になれるんだよ!
 コスモスとかゆーのにお願いして、うちらずーっと……ずーっと一緒に遊ぼーね!
 今日も、明日も、その先もずっとずっと楽しくやってくんだ。
 うちらずーっと一緒だよ、マリリ!」

 ――彼女は変わらない。
 世界が壊れて、みんな死んで、大人達が敵なことだけ変わらなくても。
「世界なんてサイアクだね」って言ったら、「ウケる。じゃあ全部ぶん殴るか」って笑ってくれた、あの時から。

(嗚呼、ほんと、)
 バカだなって思うのだ。マリリは苦笑した。
 だけど、バカみたいにしか生きられないのは、マリリもココも、そしてここにいる少女達も、一緒だったから。具体性も将来性も何もないけど、楽しい『今』を重ね続ければきっときっと楽しいから。
 薄っぺらい刹那を嗤われ続けて生きてきた。自分たちはきっと、こんなふうにしか生きられない。
 だから『そんなの上等』と笑ってしまおう。破壊的に、破滅的に、愚かしくも儚く美しく愛くるしく。

 それを三文字に圧縮すればこうなる。

「ウケる」



※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化)








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