横須賀方面作戦が開始された。
――こんな事は初めてだ。
横須賀までこれほど大量の人員が送り込まれることなど……
「……何が起こるか分からねぇもんだな」
来栖・正孝(
r2n000072)は言を零そう。
彼はヴェテラン――DDからマシロ市成立、そして今に至るまでを生きてきた者だ。
まさか再び横須賀にまで人類が足を運ばせる事が出来る希望が出てくるなど……思いもしなかったものだ。大岡川、氷鳥沢をも攻略しえたレイヴンズだ。横須賀だってきっと、彼らならば
全てが上手く行く――
「…………」
そう願ってやまない正孝だが、胸中には不安もまた渦巻くものだ。
市外遠征の順調な進行は願ってもない事。
だが正孝は知っている。市外に出て
帰ってこなかった者達がいる事を。
マシロ市外への大規模遠征はともかく――偵察任務などは過去にも行われた事はある。
例えば
栞田 花束。元K.Y.R.I.E.のレイヴンズにして、しかし
告解へと至り今や天使として……先だっての市外遠征にて姿が目撃されていた。彼に何があったのか正孝には詳しい経緯は分からない。
しかし帰還できなかっただけの理由があるのは間違いないだろう。
……そういうのは彼だけではないのだ。
「藤十郎、ここな、六華、サラエス、ベァルント――皆帰ってこなかった」
それは正孝の知る元K.Y.R.I.E.の面々の名だ。だが今は一人もいない。
優秀な者達だった。横須賀進行のような大規模作戦はできなくても、偵察任務程度であれば危なげなくこなし帰ってくる者もいたというのに――ある日、一人。また一人と減って……やがてはチーム単位で帰ってこなくなった。
そういったマシロ市外で行方知れずとなった者は確かに存在する。
死んだか。花束同様、何か理由があって帰還できなくなったか。
天使にやられたか、変異体か。予測できない天災にでもあったか。
死因が分からない事すらある。
逆に言えばそれは、僅かながら生きている希望もあるにはある、と言えるが……
いずれにせよ。外は本来、もう
人類が容易く踏み入る地ではない事を。
忘れてはならないのだ。
順調な進行は結構。しかし天使とは
この世を滅ぼした存在という絶対の脅威である。
――忘れては、ならないのだ。
「生きてさえいりゃあ、なんとかなる……
生きてさえいりゃあ、また幾らでもチャレンジ出来るんだ――」
正孝は目を伏せる。
誰ぞの姿を、その瞼の裏に思い浮かべて。
願うのだ。
「レイヴンズ。帰って来いよ。必ず、無事でな」
『――正孝様。連絡が届いております。
中華街で目撃されている終末論者について情報があるとの事です』
「O.R.A.C.L.Eか。AIってのは便利だねぇ。色々やってくれてよ」
『お褒めに預かり光栄です。
O.R.A.C.L.Eは、レイヴンズの皆様のサポートの為に全力を尽くします』
「はいはい。そんじゃ、俺も仕事に戻るとするかね……」
直後。正孝は『K.Y.R.I.E.DB』O.R.A.C.L.E(
r2n000101)に声を掛けられ、そちらへと意識を向けようか。
――K.Y.R.I.E.本部。正孝の眼前にありしモニターには横須賀方面海岸線の情報が展開されていた。接敵報告、交戦中などの状況が次々と羅列されていく……
これらの情報が勝利の二文字で埋まる事を――今は、祈ろうか。