儚く微笑む白き花を愛おしいと思ったのは何時の頃か。
幼きまなこが無邪気に私を見た時だろうか。
恐ろしげにこわごわと私の枝に触れた瞬間だろうか。
傷つけられる日々を憂い零れ落ちる涙を拭う頃には愛おしさが溢れていた。
容易く手折られるであろうその花を自らの手で守りたいと思ったのだ。
私はたった一本の若木だった。
甘縄の片隅に生えていた若木が子供達の成長を見守る内に大きくなり、霊脈の力によって守り神として自我を得た。
陽光と子供達の成長が糧であり、その笑顔を護る為に枝根を伸ばした。
子らを見守り、些細な厄災を祓う緩やかな繋がり。
甘い縄の中で良き関係を続けていた。
其れが変じてしまったのは、大破局が起こり仙泰が来てからだ。
甘縄の子らを守っていた私を、事もあろうか封呪で縛り使い魔としたのだ。
従わなければ今すぐ全員を殺すと脅して。
思い出すだけで腸が煮えくりかえる。
其れでも子らが生き長らえるならと守り神として苦渋の決断をした。
贄として幾人もの子らを犠牲にしてしまった。
私は度重なる子らの死に憤った。
怒りが身体中を巡り、封呪を破らんと暴れた。
されど、仙泰の封呪は強力なもので解かれることはなかった。
更に警戒した仙泰が、より強固に呪いを重ねてしまった。
私は甘縄の守り神ではなく、呪塊の如く堕ちてしまったのだ。
「はしまみ、しぁま?」
それは無垢な声だった。
甘縄の血を引いていない幼子を仙泰が連れてきたのだ。
大いなるものの贄として育て上げ、良き栄養とするため。
羽化や告解をすれば戦力になる等と言って。
白菊と名付けられた少年のぬくもりに私は涙を流した。
この子を取り巻く死の運命から解放してやりたい。
してやりたいのに……仙泰の思惑は白菊を苗床にし使い魔である私諸共大いなるもの――天地躯の力とすることだ。
愛している。
心から愛しているよ、白菊。
だから、どうか――私の元へ来ないでおくれ。