「全く以て忙しないものだな」
鼻先で笑った天逆 九天(
r2p002759)は提出された出張届を眺めていた。
征く先は現在、能力者救出作戦を敢行している御殿場ではなく、マシロ警察や龍華会が目を光らせていた旧小田原市である。
箱根山、そして旧御殿場市と
第五熾天使との戦闘が行なわれて居る最中にも彼等の動向は気がかりであっただろう。能力者達の目を掻い潜るように小田原の防衛を強化し、鎌倉方面へとフレッシュの勧誘活動を繰返していたのだ。
「ある程度の事件は解決できたのだから良いと言うべきだろう。
と、言えど奴らも能なしじゃない。箱根周辺での戦闘の際に船に乗りかかったように今回も顔を出すか。
……此方が救出作戦だと息巻いて御殿場へと簡易拠点を敷いているならばと背を刺すと思って居たが――」
小早川 朱雀(
r2p005229)は忌々しげに呟いた。八月一日 善(
r2p004965)は朗らかな笑みを浮かべて「やはりというべきだろうな」と頷いた。
想定はしていた、と言うべきか。
終鐘教会は第五熾天使の配下と手を組んでいた。天使ヴァルトルーデは
指導者とある種の協力関係にあったと見て良いだろう。ならば、ヴァルトルーデに加え二体の力天使による追走劇が繰り広げられる今、手助けをするというのは分かり易い。
天使側に恩を売り、同時に彼等から見て邪魔な存在であるマシロ市を排除しようという事だ。
「人員を割くにしてもマシロ市から全員がというわけにもいかないな。留守番をしていようか、九天課長」
「願ったり叶ったりだな、善」
顔を見合わせた二人を見やってから大仰な息を吐き出したのは 大鷹 冴子(
r2p002475)だったか。
「そもそも、
龍華会の首領が戦場に飛び出していったことだって終鐘は調査済みだろう。
向こうの目的は此方の背にナイフを突き刺し、陣の崩壊もしくは混乱を狙う事。
まあ、幸運だとすれば――
指導者は兎も角、小田原の
指導者は此方がこの情報を掴んだことには気付いてないだろうね」
「寧ろ、
指導者が自身が小田原から退去するためにわざと情報を流したとしか思えないがな。
それで、うちの課員も飛び出す気満々の外出届だ。どう言う作戦にする? 生憎、
室長も
指揮官も御殿場だが」
「帰ってくるのを待つだなんてとんでもないからね。
ここは
後方支援員で決めてしまおうか、九天課長」
「お、楽しくなったな? じゃあ、囮作戦だ。ターゲットは此方が救出作戦に鼻息荒く向き合って、猪みたいに前しか見ちゃ居ないと思ってる。
かぐらが鼻息荒かったことがある種、あっちの目を欺けたな。市長室に乗り込んでいったって聞いた時はおっかない女だと思ったもんだ」
「そんなことを言ったら叱られるよ、九天課長」
九天は一つ咳払いをし、旧時代の地図をとんとんと指先で押さえた。
小田原、それから箱根。その向こうに見える御殿場。それぞれに印を付けるように自らの霊力の炎を揺らがせる。
「いいか。御殿場には抜けさせない。だから箱根がターゲットだ。
第六の首の一件が覚めやらぬ内ってのは少々気がかりだが、今現状ならそうも怒るまい」
「なら、箱根山に能力者を布陣させて終末論者達をココにまで引き摺り出そうか。
すると、防衛が薄くなった小田原を揺する。こちらがその動きを見せれば向こうとて何度も仕掛けてこないだろう。
これはあちらへの警告という事で、如何かな?」
善の笑みを受け止めてから朱雀は「警察らしくない」とそうぼやいた。
正々堂々正義を掲げろ等と言っている場合ではない世情だ。
もしも、今後、更なる大きな戦いが起こった際に
彼等の介入が入らぬようにと目を光らせておく必要がある。
「面白い」
冴子はにまりと笑った。箱根をとんとんと指差して「囮に立候補しよう」とそう笑う。
「相手を引き摺り出して小田原に打撃を与える作戦。分かり易く此方の脅威を伝えられるな。
ついでに終末論者側に拐かされたフレッシュ達の救出も叶うかも知れない。
彼方に好き勝手されてしまうよりは良いだろう。それで、結構タイミングは――?」
九天と善は意地の悪い子供の様な顔をして、揃っていった。
「すぐにでも」
全体シナリオ『謫すトルメンタ』が開始されています!