学生らしい青春を


「るうあー! るうあー!
 私の机の中に動くゴボウがいたんだけど、このイタズラるうあでしょ!!
 どこいるの――!!」
 刻陽学園内。叫んでいるのは天羽・アオイ(r2n000026)――彼女の手中では、いつまでも活きが良く新鮮であると評判のアガルタ産農作物『ゴボウ君マーク2』が暴れていた。一応言っておくと無害な農作物である。信じろ。
 ともあれK.Y.R.I.E.による作戦が開始されてから暫く。
 レイヴンズの活躍はマシロ市や刻陽学園にも伝わり始めていた。
 天使やサヴェージの討伐。それから市外に転移したと思われるフレッシュの救出なども行われており、その作戦の報告書が次々と齎されているのである。そして、それらのいずれも好調なる結果を指し示していた。
 市長、涼介・マクスウェルの目標であるレイヴンズ達の『慣らし』は順調といった所か――良い報告が生じえればそれだけ皆も活気づく。それを抜きにしても、マシロ市の人口拡大に伴って学園の生徒数も急増していれば学園自体、随分と賑やかになっていた。まぁアオイがからかわれたりするのはいつもの事なのだが。
「あああああゴボウ君が! ゴボウ君が抵抗を示してるわ!
 なにこれもしかして生命が芽生えてる!?
 るうあー! なんとかしなさいよコレ――!」
「……やれやれ、騒がしいものだな」
「あっ、学園長!! 助けてこれどうにかしないと……あっ!」
 刹那。声を掛けられたアオイの一瞬の隙を衝いて『ゴボウ君マーク2』が逃げ出した。
 地面を跳ねながら雑草の中へと駆け抜けていき――あぁ見失った!
 大丈夫だろうか。何か問題が生じたりしないだろうか。
 なんとなし胸中に不安が生じるが――きっと無害だ、アガルタを信じろ。
 それよりもアオイに声を掛けた主は、この刻陽学園の学園長。
 棟耶 匠(r2n000068)であった。
「元気なのは結構だが、羽目を外しすぎないようにな。この前も廊下を随分と……」
「あ、あれはるうあが車椅子に勝手に変なブースター付けただけで」
「まぁいい、お説教をしたい訳ではないのだ。
 だがここ暫く、学園には新しく入って来た者達も多い。見本となれるようにしなさい」
 『うぅ、はい……』としょげたように答えるアオイ。
 厳格なる雰囲気を携えている匠だが、しかし彼は実に生徒思いの人物であり……それほど恐ろしい者ではない。学園の生徒が増え親交の繋がりが生徒間に広がっている事を喜ばしく思っている程だ。
 されば、今年の学園の催しは一層の賑やかになるだろうなどとも思いを馳せる。
 こんな世界の情勢下であっても、生徒達が笑顔になってくれるなら嬉しいものだ。
 ――ただし。
「……尤も。些か雲行きが怪しい所もあるようだが」
「んっ? 学園長今なんて?」
「――いやなんでもない。君達は学業に専念したまえ」
 だが。学園長にとっては――いやK.Y.R.I.E.の上層部も気付いているだろうが――現在の情勢に対し懸念が全くない訳ではないのだ。転移に伴うレイヴンズの急増は純粋にマシロ市の戦力が増えた事を意味する、が。
 時間を超えて転移して来た者達が全員『善人』とは限らぬ。
 多くの者達はK.Y.R.I.E.への協力を示してくれているが、しかし。
 一方でK.Y.R.I.E.の管轄に入らず行方を晦ませる者もある程度、いるのだ。

 二十八年の歳月に精神的ショックを受けたか――
 マシロ市やK.Y.R.I.E.に従う義理などないと考えたか――
 様変わりした世界になんらかの想いを抱いたが故か――

 彼らの心の底は分からぬ、が。
(せめて子供達には、穏やかな日々を過ごさせたいものだ)
 匠は目を伏せ、想いを巡らせよう。
 もう少ししたらプール開きやキャンプが行われる時期。
 あぁきっと楽しい出来事があるのだから。
 ――この世界は、天使により滅びに瀕している。
 それでもこの一瞬の刹那にだけでも。
 喜びと楽しみを見出してほしい。

 ――人は希望の中にこそ生きられるのだから。

 せめて子供達は子供達らしく。
 『学生らしい青春』を、どうか――歩んでほしい。どうか存分に享受してほしい。
 この世界は、まだ生きているのだから。


※シナリオ返却が始まりました。市外転移したフレッシュ達が保護され始めたようです。

※座標消失より復帰したフレッシュが2052年のマシロ市に合流しました!
  現在、そして以後の時間軸は5/4(リアルタイム)に合流しています。

※参考として公式ノベルもご確認下さい!

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