パノプティコン・ブレイク


 ――なんたることだ。
 ――なんたる失態だ。
 ――このような事、あり得てはいけない。

 ヴァルトルーデ・ライフラスは静かなる怒りを秘めていた。
 
 全て、想像外の出来事である。あの方が不在の間にこのような事態が生じるなど――
(運が悪かった――? いいえ、
 事の始まりであるパノプティコンに生じた異変。
 アレはそもそもなんだったのか? 原因を究明している暇など無かった、が。今なら多少推察は出来る。アレは外部からの干渉ではなく……。連動して外側からも干渉を受けた可能性はあるが、根本的な原因はやはりではなくだろう。
 人間達の仕業か? ――それはあり得ない。
 敵対的存在からの神秘的干渉などパノプティコンに通じるものか。
 あの時の人間達に抵抗の余地や可能性などゼロだった。
 ならば……――

『――よぉ』

 瞬間。怒気を孕んでいたヴァルトルーデに臆する事なく言を紡いだ存在がいた。
 それは――使使
 アレクシスの洗礼勧誘を受け入れた元レイヴンズ、r2p005402)だ。
『こわーい顔してんなぁ。そんな顔してたって仕方ないぜ?
 一度起こっちまったもんは、もう取返しが付かないもんさ』
「……随分軽快に言ってくれるものね」
『まぁ俺は新参なもので。パノプティコン異変の責任はない――よな? よな?』
「全ての判断は猊下がなされるわ。事が収束した以上、我々は猊下のお言葉を待つのみ」
 うへー、とどこまでも軽い反応を見せるりもこん。
 アレクシス麾下の天使の中では中々異端な雰囲気だ。と言う事を考慮しても雰囲気が些か既存の面々とは異なる。とはいえ……彼の加入そのものに対し、ヴァルトルーデに異はない。
 
『……で、その猊下はまだお戻りになられない? そんなに重大事項だったのか?』
「――さぁ。でもきっとそう長くはないわよ。
 それより……貴方に任せた、
『あぁ、
「……手を抜いた訳ではなさそうね」
『当たり前だろ? もし俺に叛意があるとしても、だ。
 意図的にそんな事が出来るんだったら、
 これまたあっけらかんと。りもこんは、己が出向いた脱走者側の件を話すものだ。
 元々、天使化を受け入れる選択をした時点で、りもこんは。故に己に齎された勅命に従い脱走者であるかつての仲間達を追い詰めに向かったのだ――
 が。結果として使命を完璧に果たす事は叶わなかった。
 ……人の強さは知っていたつもり、だったのだが。
『やっぱ――強いよなぁ』
 りもこんは。、言を零すものだ。
 その仮面の奥底の瞳に、どのような感情の色を秘めてるかは窺えないが。
 ……あぁ、あの戦いはりもこんの敗北だ。
 彼は全力だった。与えられた力と使命に従ってレイヴンズを追い立てた。
 それに偽りはない。その上で負けた、と呟こう。
 己が命を奪われた訳でも何でもないが、あの結果に対し己が勝利などとは口が裂けても言えない。
 ……だって、なぜなら。



 ――己は