天雷のたもとより
赫々と天を灼く業火の下。
霊峰の噴火は、さながら太古の罪都を滅ぼした神の怒りの如く、吠え猛っている。
だが戦場を駆ける声色は、人々は、戦士達は、粛々と裁きを待つものではなかった。
「撃破!」
「撃破だ!」
「やってやったぞ!」
喝采が轟いている。
天の咎めさえ果敢に押し返し、裁きをも毅然と跳ねのけるように。
「敵部隊の壊滅、および能天使級フェルエナの撃破を完了しました」
総隊長を務める九陽 ユエル(r2p005304)の言葉に、熱狂は頂点へ達した。
「現時刻をもって、作戦コードCerberus Rampageの終結を宣言します。
各員、お疲れ様……と言いたいところですが、これより掃討作戦を――」
「待ちな、総隊長サンよ。こっから先こそ俺等の役目だろ」
ユエルの言葉を遮ったのは、一行に随伴していたキャンプパールコースト中隊を率いているマーク・ウェイルズ中尉だった。
「いえ、こんな状況で休んでいる訳にはいきませんから」
「休んでもらいてえ気持ちもあるにはあるが、そうはいかねえこた承知の助よ。
それよりなにより、あんたらにゃ行かなきゃなんねえ戦場がある……違うか?」
「……ご配慮、痛み入ります。ですが神聖領域を伴う大天使級の始末には、私達K.Y.R.I.E.能力者の戦力が必要不可欠ではないでしょうか」
「だったらアタシらをここに置いてけよ」
小舞 カスミの言葉に、向日治 サエ、弥部 清に弦鳴 ののん等、執行服を纏った山百合寮生が頷いた。特記戦力ならぬ、けれど名も顔もある戦士達。
「アタシら二軍は二軍なりにどうにかしてやっからよ、お前らは先にいけや」
「山百合、通常戦力二十四名。十八名は戦闘継続が可能な状態ね」
「残りは下がってもらったよ、戦死者はゼロだ」
Eila・Noir=Magna(r2p005670)の報告に、ラフィ・A=F・マリスノア(r2n000017)が続けた。
「で、功労者一等は?」
「さすがに休んでもらってる。あんなことしたんだよ、さすがにね」
大津 月翔(r2p000520)はいったん陣幕内で休息してもらってはいるが。
まあすぐ飛び出してきそうな気はしている。
「こっちも死者はゼロ、二十人が戦えるぜ。ま、この私が居たからな!」
刻陽中等部の生徒たちは、紫桜 ユーナ(r2p000297)――番長の頼もしい背を決して忘れないだろう。
「よくやったもんだ」
「ね~」
「こりゃ花まる💮もんだな」
素直に関心したキキ(r2p000208)の声音は感慨深く、ヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)も頷き返す。正直にいえば驚いた。
「わたしたちはどうしとこっか」
「なやむもよ、でもとりあえず祝う?」
「そうしとこ」
ルピナス(r2p000420)と花祀 あまね(r2n000012)が、握り拳を合わせる🩷🩵✨
「柄でもない役目だったとは今でも思うけど、お眼鏡にはかなった?」
「めっちゃ助かりまくりで好きゲージ超あっぷ♡」
朝賀 よるがお(r2p003456)とあまねが笑い合い、そこへ明星 和心(r2p002057)もやってきた。四人は勢いよく肩を組む。
「おっめぇ~、大勝利だしぃ~☆」
それに他のみんなも。全員の顔がそろっていることが、何よりもうれしい。
盾役を完遂したエクスセリア(r2p001259)も、ほっと胸をなでおろす心境だ。
「こっちも異常なし、戦えるのは十七名だよ」
「こちらAstratica、これよりデータの整理、展開を始めます」
桜木 結永(r2p000944)とAstratica(r2n000141)は頷きあって、青海 悠河(r2p000047)と田沼 瑠璃(r2p001458)に視線を送った。
「ともあれ、これで出そろいましたね」
「ですね。戦闘不能者の撤退も完了したところです」
作戦目標の達成が非常に困難とされた戦場において、成功のみならず、通常戦力も含めて能力者全員が生還したというのは非常に大きな成果だ。
「ねえ、でも、あのね悠河君。軍の人のみんなは、どうなんだろ」
「ええ、そうですね、それは……」
宮羽 恋宵(r2n000131)の乾いた声音に、悠河は言い淀んだ。
彼等は能力者ではない、ナチュラルの部隊だ。
無傷は考慮外としても、殉職者が居ないという訳にはいくまい。
「こちらはこちらで管理する。我々への心配は気持ちとしてありがたく受け取るが、それ以上の配慮は無用に願おう。我々とて覚悟はとっくに済ませているのだからな」
中島准尉が言葉を敬礼で結ぶと、周囲の軍人たちも一斉に倣った。
彼等の態度は、どこまでも誇り高い戦士であろうという決意に満ちている。
それでも否定はしなかった以上、もう決して帰ってこない人は居るのだ。
重い事実に息がつまるが、立ち止まっている訳にはいかなかった。
あの墓へまた祈りにいくのは、全て終わったあとでいい。
「こっちも問題なく、敵は撤退しているのです」
軽く周囲の偵察を終えたルーナヴェルテ(r2p005096)の報告を聞き、辺りにはようやく安堵のどよめきが広がりはじめた。
神狼――ルゥリィ・ロペス(r2p001208)達は、戦乙女をついに食い殺した。
フェルエナは好戦的で残虐な、許すべからざる天使だ。だが能力者達との戦いを通じて、彼女はあれほど気色悪がっていた人類に、ついに美しさというものを見出したのを思い出す。
彼女は人類を神の最高傑作と表現した。
ならばその最後は、存外に悪くないものだったのかもしれず。
とはいえフェルエナの結論は「だから殺す価値がある」というもので、人類とは決して相いれるものではなかったのだけれど。
考えながら、ルウリィは燃え盛る巨大な霊峰を仰ぎ見た。
ここでの勝利は大きいが、戦いはまだ終わっていないのだ。
そうした中で音無 沙織(r2p000458)は、静かに押し黙っていた。そしてねぎらいあう神代 くるみ(r2p000888)と、水代 さくら(r2p000777)の背を見つめている。
「……」
「心配、だよね」
「はい、特に……」
ねぎらうラフィへ、沙織は言葉を詰まらせた。
さくらの戦い方が苛烈すぎる。
最近どこか様子がおかしいのではないか。
強すぎる光は、輝きは、身も心も魂さえも焼いてしまうのではないか。
このままでは、彼女は――。
けれど最後まで言葉にしたら、現実になってしまいそうな予感がして。
だから沙織はラフィと目くばせ一つ、続きを述べることはできなかった。
先生に相談すべきなのかもしれない。
いずれにせよ最終決戦は近く、この場所もまたすぐに戦場となる。
それでも――よるがおは後ろ手に組んで、にんまりと笑った。
この瞬間に、よるがおにとってのきれいは、どこにもないから。
だから今だけは、この面白みのない虚無をこそ、愛しみ惜しみ祝おうか。
未だ戻らぬ大切な仲間と。
喜びを胸に天へ還ったあの子と。
なによりかけがえのない、この大きな意味を持つ勝利のために。

