焔を越えて
仰ぎ見よ、大地が炎を噴いている。
そして――赫々と燃える霊峰よりも烈しく戦う者がいる。
「降りかかる火の粉は……祓うまでや!」
「とりあえず――殴ればいいよねっ!」
暁天の輝きよ。ナタリア・トゥオーノ(r2p000741)が黄金角より命そのものの煌めきを帯びた大熱線を放てば、その傍らでは平坂 あすか(r2p000919)が闘気纏う拳を強烈に突き出した。
「ボクらを、止めてご覧よ」
前へ。前へ。星 美(r2p004141)も鏑矢の一つ。眠龍励起法――美は足を止めぬ限り強くなる。しなやかな脚が描くは死の芸術、回し蹴りがセラヴィの首を絶つ。
その頭が地に落ちきる前の一瞬で。
「――わかれ」
一、二、三、以下略――ルピナス(r2p000420)の星雲の翼が、周囲の天使へ連打乱打の宇宙わからせパンチを放つ。身体がひしゃげる天使共の、白い羽根が噴煙の空に舞う。
その空に、「ぱきん」と高らかに美しい音。アクア・フィーリス(r2p000099)が放った零下結晶は氷のように透き通って――猛毒となり、天使共へと降り注ぐ。
「数ばっかり多いんだから。蹴散らしちゃうよー!」
「ええ……この世界を壊しましょう。――神の審判です」
紛い物は朽ちなさい。奇しくもヨナ・サラフ・エフライム(r2p006845)が用いる力もまた毒である。燃える蛇。内に秘めた神の力は解き放たれ、目につく敵の悉くを蝕もう。
「偽りの天使共が騙る滅びなんて、受け入れてあげない」
ルシフェルの旗が翻る。それを携えた紫崎 天子(r2p001137)の長い紫髪と共に。
いざ叛逆を。勝利という光へ手を伸ばそう。天子の白い翼が開かれる。放たれる光は、楽園を奪還せんとする意志の具現。
次々と前線を切り拓く乙女らの奮迅、奮闘、烈火の如く。
かくしてその背を支えるのは、祈り、願い、鼓舞である。
「私は君たちを応援してるよ。だからこそ……消えないでね?」
「ボクの前で、誰も死なせないんだからねっ♪」
目眩く日々の唄。星空 凪(r2p005001)はめくるめく煌めくような思い出を奏で、フィオレンティナ・花山院(r2p000526)はそれを伴奏に榊神楽を舞う。
帰りたい場所がある。迎えたい未来がある。――だから生きて帰る力を。
そんな二人を護るのはフォートレス Mk-Ⅳ(r2p001532)。その名の通り砦となり、降り来る攻撃のことごとくを大盾で受け止めてみせる。一歩も、一ミリも、譲らない。
「オレが護る。護ってみせる」
凛と、前を向く。
「父様、母様……見ていて下さい……。蒼はこの務めを果たします!」
戦いの果てに安寧があると信じて。宇迦之 蒼刀(r2p007513)は短く呼吸を整えると、居合の構えを取った。月雷抜刀術――その剣閃は疾風迅雷、無銘の刃が活路を彩る。
「……邪魔だ。退け」
対し、阿門 光(r2p004554)が繰る二刀が纏うは凍てる水。その眼光のようにどこまでも冷たく、どこまでも無慈悲に、鎧袖一触、片っ端からセラヴィを斬る。剣戟は止まない。
激戦、激闘。混沌とした戦場。戦いが止む気配はなく。
だけど――
「終わらない嵐なんてないんだよ」
エリザベス・ゴドウィン(r2p001968)はしららかな指先を突き付けた。刹那、放たれるは風の槍。No name one。風が終わった跡地には、赤い曼殊沙華の大輪と、静寂とだけが横たわる。
――その空白を埋めるように、また、天使共が群れ成して来る。
まさに醒めぬ悪夢のよう。それでも、神納 天座(r2p007510)が戦わない理由はない。
「そのためだけに育てられたっすから……戦わなかったら全部無駄じゃないっすか」
構える剣。習った通り。教わった通り。叩き込まれた通り。才能がなくても繰り返した呼吸法、歩法、型の通りに。
強く在れと望まれて。強くなれる才がなくて。
選択肢はなかった。他にできることもなかった。
人生を懸けて研ぎ澄ませた武を以て、かくして放つは――渾身の通常攻撃。
「あはは!」
そんな命懸けの戦場で、響くのは不謹慎なほどおちゃらけた笑い。
「何もしてないのに壊れちゃった!」
口元を鉄扇で隠して、時頃田 ツバメ(r2p000108)は立っている――砕けたオベリスクの上で。こうやってオベリスクをぶち壊すのも慣れたものだった。ちょっと前もやらかした。
でもツバメ曰く「僕は悪くない」。これはどこかの誰かが、壊れたらちょーっと財布が痛いものを、よりにもよって、貧乏神の傍に置いてしまった……それだけの話じゃないかな!
「悪いけど、雑兵にいつまでも構ってられないんだ。ほんとごめんね?」
まだ無事なオベリスクへ、そしてそれを護る天使へ、獅堂 政季(r2p003447)は弓矢を引き絞る。射手座の紋が煌めく右目は狩人の瞳。まとめて吹き飛ばしてやろうじゃないか。乙女の血から成る射手座の矢は、流星群のように雨霰。天使の心臓を片っ端から射抜いてゆく。そうして丸裸になったオベリスクをいとも容易く撃ち壊す。
「空に輝く射手座の女……ってね。さてと、状況どんな感じかな?」
「――増援と撃破のペースは拮抗している、といったところでしょうかね」
答えた只野 白子(r2p000765)は黙々と、目につく仲間達へ支援を行う。亢進、光陰、安らぎあれ。徒手空脚で、奇跡の結果ですっごいことはできないけれど、私情報処理ちょとできる。
さて白子は「拮抗している」と言った。文字面だけならばあまりポジティブな気持ちにはなれないだろう。――だが相手が第五熾天使の無限めいた軍勢ならば?
天使の果てなき物量に、どれだけの人類が苦しめられてきたことだろう。米軍、Baroqueの親衛隊、エトセトラ――ゆえにこそ。
呑み込まれていない。
それだけで奇跡のような戦果なのである。
鶴の翼のような長い髪が、ひらり。
死なせない、そんな想いは祈りのように。
弥樹 所縁(r2p001966)は鶴の涙を流す。愛すべき生命のために。その朱色は天使共の気を引こう。刃を呼ぼう。弾丸を導こう。そうして所縁は血に染まる。それでも、華奢な身体が倒れることはなく。
所縁の献身は、どれほどのレイヴンズを救ったことだろう。
その祈りは、どれほどの傷を癒したことだろう。
――所縁が護ったからこそ斃せた天使の数は、優しさがゆえに成した偉業は、数え切れぬほど。
「生きて、帰ろう。必ず、皆で――この燃える焔を、越えていこう」
それは心からの願い。たったひとつの、切なる想い。
だからこそ。譲れない。負けられない。――死なない。

