屠る黒泥
削り、削り、叩き、叩かれ。バルトロに数十倍するような死を叩きつけられながらも。
契約じみた生命賛歌は、或いはレイヴンズ自身のその意思は彼等に足を止める事は許さなかった。
これで決まるのだ。勝ちも、その逆も。人類の命脈も、その滅びさえも!
「俺の翼の蒼い炎は、愛する人からの貰い火だ。
絶望して、空っぽのまま生き永らえていた俺に――彼女が希望を灯してくれた」
繰り出されたバルトロの触手がハンスの腹を深々と貫いていた。
「……だが、分かる、かバルトロ! 俺は独りで戦ってる訳じゃねぇ!
シンディー、揚羽組、葉山島で守れなかった人達…沢山の人の想いを燃やしてここに居る……!
殺れると思うなら、このまま無敵の俺を破ってみせな……!」
逃がさない。休ませない。このまま、押し切る――
「礼は言わんけど、少し位は認めたる。元リーマン」
憎まれ口はその実、暗殺術を操る大家であるたてはがハンスをプロと認めた一言だ。
【揚羽組】、最高戦力を守ったハンスの作り出した隙は――薄過ぎる勝ち筋を刹那に煌めく宝石に変えた献身だった。
「うちをエスコートしたかったら――分かってるやろな!?」
水を向けられた朱鷺が頷く。
全身全霊、全力を込めて十割を攻めに向けたたてはの道を拓くのだ。
(俺は……)
朱鷺はダメージを隠せず、怒り蠢く黒い何かだけを見て強く想う。
(俺は、悔しくて、いつかバルトロを倒したくて……)
幸生達に付き合ってもらった訓練は自己満足だったかも知れない。
一人の力で何かが出来たかは分からない――今も。
だが、あの葉山島で自身等を逃がしてくれた門下達の事は忘れられない。
彼等に託された――彼等の宝物は気付けば朱鷺にとっても、余りにも。
「バルトロォ!!!」
人型をとうに失ったそれが言葉をどう受け取ったか知る術は無い。
だが、和弓・霊鳥を引き絞った朱鷺の双眸は最初から一貫して彼だけを見つめていた。
「お前にとって俺は有象無象でも……俺にとっては特別だ!」
あの日の悔しさを晴らすため、ほっとけない女の子の為に。
撃つんだ、絶対に。届け、あいつまで――
放たれた朱鷺の光矢が影を引き裂き、遂にバルトロに直撃する!
「上等や!!!」
目を見開き、紫色殺陣――蝶のオーラを開いたたてはの斬撃がバルトロを十字に割る。
――おあああああああああああああああああああ!!!!
黒泥が悲鳴ならぬ絶音を響かせ、黒い靄が周囲に散る。
だが、それでも――霧散しないバルトロは間近のたてはを呑み込もうと今一度何かを形取ろうとしていた。
それは余りにも絶望的な終焉に見えたが――
――煩いですよ、いい加減。
冷徹な声がその運命に待ったをかけた。
「私の聖典はお前に――『疾く死ね』と言っている」
密やかにバルトロの至近まで到ったtheioはその結論を譲らない。
「私が殺し、私が救う。私はお前を生かして逃しはしない。私はお前の一分ばかりも赦さない」
今まさに『聖典』theio Salvaciónは――裁決に、到れり。
「EXECUTION」
短い言葉と共に迸った光の奔流は広域救済。
「……いいトコだけ取られたわ」
「日頃の行いが良いので!」
舌を打ち、しかし手を上げたたてはとtheioの手が乾いたいい音を立てた。
「ハハッ、良い顔だ。たてはさんも、君の方も」
秘蜜が笑い、皮肉に言った。
成る程、卑しくも逃れようと蠢く闇の欠片の全てさえ打ち据えたtheioの光は――バルトロに余りに丁度いい『判決』と呼ぶに相応しい。
※レイヴンズの死闘で力天使バルトロが撃破されました!!!

