誰もがそれを望んでいる
「……さて、それでは現状を確認しようか」
富士山の噴煙も止まぬ中、その男はいつも通りに冷静な口調で開会を宣言した。
黒崎探偵事務所に縁あるもの……あるいは、偵察部隊に縁がある者。
此処に集まったのはそういう面々だ。
そしてこの男は『怪奇探偵』黒崎 光太郎（r2n000041）。
黒崎探偵事務所の所長である彼に『偵察部隊員』東宮 真琴（r2n000124）はアハッと笑う。
「状況がクルクル変わって忙しいですよね！ だからこそって感じではあるんですけども」
「ほんと、いっそ笑えるってものっしょ。とはいえ、何から説明したものかだしー」
槓良=N＝澪（r2p002132）も状況は概ね把握しているが、秒単位で変わっていく戦場の情報の中で……まず伝えなければならないことを口にする。
「……あーしからは、一つ。アレクシスは未だ健在。それと……」
澪が思い出すのは、魂（r2p000385）のことだ。
豊穣鬼神を名乗りアレクシスの貌に一撃食らわせたあの雄姿を忘れることなど出来ないだろう。
「それだけではない。かの存在のことも、だな」
『夜を往く者』ローデリヒ・Ｖ・ラディーレン（r2p000113）が言うのは、九頭龍大神のことだ。
アレクシスとの戦いに参戦し怪獣大決戦の如く大暴れしている九頭龍大神は、今のところ此方を味方として認識している。
森羅万象の理よ、我が手中たれ。
そう名付けられたアレクシスの権能の恐ろしさは未だ知れていない。
「想像以上に強大だ……想定していたはずがその上を、更に上を見せてくる……」
だが……ローデリヒの瞳には、それに立ち向かわんという強い意志が見えている。
「だからこそ、勝たなければならない。ここで私たちが負けたら終わりなのだからな」
「当然！ 負ける気なんてないしー！ ね、ダー……ああー……」
澪が何を言いかけたかは光太郎は当然のように気付きフッと笑う。
澪もまた光太郎が何に気付いたかに気付き、その脇に一撃入れるが……光太郎は気にした様子もない。
「それより！ 他の戦場はどうなってるんだしー？」
「ターリルちゃんは対話の道を選んでくれたよ♪」
『映える～☆』夢宮 苺歌の報告に真琴も未だに驚きを隠せていない表情で笑う。
「やー……ビックリですよね。まさかのまさかって感じです」
「やだなあ、真琴ちゃん☆ これは奇跡じゃなくて必然！ 皆の心が起こしたことなんだから♪」
なるほど、そうなのかもしれない。
かのイサーク・サワは「綺麗なものはすきよと笑った。
綺麗なもの。誰もが望むもの。けれど最後まで綺麗にあれるのかは分からない。
エルシィとの戦いも未だ激戦の最中。
セントラル・テミスを巡る戦いも、まだその終着点は見えていない。
小田原では終末論者たちが蠢き、悪意の繭より仔らがが産み出された。
「でも、ここまで来たんだから♪ 全部綺麗に終わらせなくちゃね♪」
「あはっ、そうですね。それが一番幸せなのは間違いないですね！」
ローデリヒは「違いない」と頷いて。
澪は、チラリと光太郎に視線を向け「何か言うことはあるしー？」と聞いてみる。
その答えはもう、予想できている。
「何もない。だが……誰もが綺麗な終わりを望んでいる。であれば、少しでもそこに近づくために……走り回るとしようか」
そう、誰だって綺麗なものはすきだ。
だからこそ望むし、だからこそ戦う。
その先に……きっと、それがあると信じて。
