共に戦う理由にそれ以上なんて必要か?


 もう地鳴りを聞くのも幾度目か。
 御殿場、K.Y.R.I.E.前哨基地。無尽蔵にも思われる天使級セラヴィは物量に任せてここにまで現れることもあり――屋根や砕けた大地にて奴らの骸がそのままになっているのは、いちいち片付けていられるほどの暇がない・あるいは片してもまた次が来る状況を示しているか。そしてそこに終末論者の気配がないのは、小田原での作戦が無事に進んでいるからだろう
 野晒しの、折れかかった翼が不格好にはためいている――

「大丈夫、リルがついてるよ~……」
 夢魔の杖をひとふるい。ヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)はもこもこした羊の幻影を呼び出して、前哨基地に戻って来た乾・依心(r2p000803)へ治癒の力やさしいゆめを。
「ふー…… ありがとう、大分とよくなったよ」
 もふもふ。依心は幻の羊を指先で撫でる。ヒュプリルのおかげで少しの間お昼寝したような心地に包まれている依心であるが、長く深く休むつもりがないのは――またすぐに前線へ発つつもりだからだ。
 それはヒュプリルも同じで。優しい笑顔を浮かべて仲間達へと夢魔の杖を振るっているが、……その胸の奥は渦巻いて、ざわついて、乙女の心を締め付けていた。

 ――ひとりのレイヴンズの死

 この場に居る誰もがきっと、同じ顔を、同じ名を想い浮かべていることだろう。
(……それでも、)
 依心が凛と前を向いたように。誰も彼も、哀しみを顔に出しやしなかった。前哨基地に啜り泣きの声はなかった。零れる涙は、なかった。
 ――きっと、彼は仲間が泣くことを是としないだろうから。
 ――きっと、彼は自分達が前へ進むことこそを望むだろうから。
「負けられないよね」
「うん。……もうこれ以上、誰も死なせない」
 星河 綺羅々(r2p000053)の言葉にエクリヤ・メサイオン(r2p005396)が頷いた。二人ともぼろぼろで、傷だらけで。顔にははっきりと疲労がにじんでいる。空が噴煙でずっと暗いから、時の経過も曖昧だ。自分達はどれだけ――戦い続けているんだろうか。
 そんな中でも綺羅々の瞳は、その輝きを決して失うことはない。果てしない孤独の闇宇宙に輝く星のように、きらきらと。
「あたし達の輝きを見せに行かなきゃね」
 綺羅々の言葉は、この戦場のどこかに居るのだろうへと向けられていた。
 かつて仲間だった者が天使となる。苦い現実は――しかし、向き合わねばならぬ真実で。だからエクリヤは武器やいばを握る。顔を上げる。胸に心灯きぼうを。帰りたい場所が、できたから。
 ――小さく、幸平 かなた(r2p001526)は呼吸を整えた。前線でも、前哨基地でも、かなたは傷付いた仲間をその神秘で癒し続けていた。疲れていないと言えば嘘になる。それでもまだ戦わねばならない相手が――ウィラ、存在き力天使、ターリル、そしてアレクシス――まだ残っているから。
「大丈夫です、きっと」
 根拠のない言葉だと心の根っこで想いながら。そう信じることにこそきっと意味があるのだと、
「それじゃあ……行こうか、みんな……」
 束の間の休息は終わりだ。ルゥリィ・ロペス(r2p001208)は血のついた顔を拭うと、満月の瞳で仲間達を見た。いざ、天使共にとっての災厄の獣となろう。第五熾天使が神を騙ると言うのなら、それを喰らい堕としてやろう。身体に傷は重なれど、心も命も滾っている。
 進もう。
 前へ。
 グレイスリィン寮の面々は、からこそ他の寮のような特別な絆とは少し縁遠いかもしれない。
 多種多様。なればこそ向いている方も主義主張もそれぞれで。
 それでも、同じ場所で暮らして、同じ時代を、同じ場所で生きている。

 ――なら、共に戦う理由にそれ以上なんて必要か?


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