シリキ ウトゥンドゥ


「こんなの所に居たのか、パウリナ。探したぞ」
 とそう呼ばれたクロリンダは自らがカタルモイにて頭領リーダーと仰ぐ女を探していた。 
 クロリンダよりも幾分も若く、それでいて誰よりも魔術師を恨んでいる女はゆっくりと振り返った。
「まあ、何か御用でしたか、クロリンダ。
 申し訳ありませんわね。溝鼠がこの辺りにいるのではないかとついつい……追いかけて入り込んでしまいました」
 頬に手を当てて何処か楽し気な微笑みを浮かべたパウリナは足元に転がっていたティティフィティアの少年の死骸を蹴り飛ばした。
「殺したのか?」
「この子、魔術師の分際でわたくしに攻撃を仕掛けましたもの。これは正当防衛ですわ」
「そうか」
 周囲に散らばっているデバイスをパウリナは踏み潰す。どのみち、ボーナスチップと呼ぶべき大したものはこの少年は持ち合わせていなかった。
 他者のデバイスを借り受けて自身らのものとする特権。それを有するティティフィティアは人類派閥としてはそれなりの脅威に他ならない。近頃はと言えば、K.Y.R.I.E.と呼ばれた魔術師と魔術師の混合部隊とも懇意にし始めているように見えた。
 パウリナからすればティティフィティアもプシュケーも、そしてK.Y.R.I.E.も魔術師を庇護する気味の悪い集団だ。
 彼女の言う非魔術師と言うのは生まれより魔力や異能を有さない存在だ。それは後天的に異能を有する事になった堕天使をも含んでの彼女なりの侮蔑なのだろう。
「彼らは害悪でしかありませんもの。わたくしたちは、ただ、人よりも聡かっただけ。
 勝利のために何をして良い。平穏の為ならば刃を振るっても構わない。
 礫を投げるのはあくまでも常識と秩序の為である――と、そう言うのであらば、わたくしはそれに抗うのみでしょう」
「それで?」
「殺しました。それだけです。可哀そうだという感傷の一つもこの子に持ち合わせいませんわ」
 かつん、かつんと地下鉄通路を歩いてゆくパウリナはそう言った。
 女は、呪術師だ。それはパウリナだけではない、に寄せ集められた者たち皆がそうした境遇である。
 彼女の祖国では大破局と呼ぶべき天災がやってくるまで魔女裁判と言うものが存在していた。呪術によって他者を害するのはあり得る事とされており、人類は魔法や呪術、そうした異能を持ち合わせて生まれたものを排斥した。
 当たり前のように、疑わしくは殺す。
 そんな日常でパウリナは父を、母を、そして妹を喪った。14歳にして何もかもを喪い、大破局を経て今、彼女は此処にいる。
 いっそのこと使
 お前は魔女だ。お前は呪術師だ。人を呪った。そんな謂れもない罪で火に炙られた父。目と口を縫い合わされた母。崖より突き飛ばされた妹。
 何方の方が魔女か。どちらの方が非人道的か。そう叫びたくなりながら、彼女は同志をかき集めたのだ。
「ねえ、クロリンダ。わたくしたちは忘れてはなりませんわ。あの苦しみを、あの怒りを。
 ……コスモスを手に入れましょう。そうすれば、非能力者などいない国を手に入れる事が出来る筈」
「それを餌に話が分かりそうな熾天使とやらにオーダーを通すって話は?」
「それも考えますわ。けれど、虫けらの話を真に受けてくれるとは思いませんもの」
 パウリナはそう言ってから自身の手にした統一デバイスをじっと見た。
 各派閥の動きが時折更新される。K.Y.R.I.E.と言う殺すべき相手ライバルは第五戦区に進んだか。
「……追いかける?」
「彼ら、動きが少し慎重ですわね。なら……ええ、此処で待っていても会えるのではなくって?
 楽しみですわね。魔術師協会と名乗る方と逢ったの。ご存じ? 表の、魔術師たちよ。
 何も知らず、平穏に生きているような気がしてわたくし虫唾が走りました。ええ、だって、能力者を連れていたもの」
 浮かれた調子でそう言ったパウリナは何か物音を聞いてクロリンダを振り返った。
 クロリンダは頷き魔力の糸をそっと放つ。じりじりとそれは伸び行き、ある一定の場所でぷつんと切れた。
が近い」
「ええ、わたくしも聞こえましたわ」

 ―― ……… メッ!!!!

「ふふ、誰かを追い回しているのかしら」

 ――――― ……… ニクッ!!!!!!

「ああ、かわいそう。誰か、掴まったみたいですわね。わたくしたちもに会うのはあまり得策ではありませんわ。
 退きましょう。もしも能力者が出て来たならば何処ぞで待ち伏せしてやればいい。
 ここをわたくしたちの狩場にしてやればいいではありませんか。
 暗くじめじめとした場所を溝鼠は好みますわ。……ああ、楽しみ。苦しんで、死んでくださるかしら」
 死体の匂いに釣られて迫り来るの動きが徐々に早くなっていく。
「パウリナ、こっちだ」
 そっとその手を恭しく引いたクロリンダは嘆息した。
 この世間知らずのお姫様la princesseはどの様にこのゲイムを生き延びるのか。
「ああ、楽しいわ。ねえ、クロリンダ。もっともっと、魔術師が苦しんで死ねばいいのに」




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