アーリーデイズ 桜開花予想


 テレビニュースでは楽しげなお天気キャスターの声音が弾んでいる。
 日本地図には桜の蕾が点在し、花開くことを待ち望んでいるかのようだ。早咲きの桜を見て回るレポーターの楽しげな声音は、トランポリンの上を跳ね回ったボールのように興奮を伝えていた。
 大型家電量販店の店先に、展示されたテレビから流れる桜の予報に目を向けてから立花 空葉r2n000034は物思う。
 ――桜、と言えば駅前のカフェでも『桜ラテ』と名付けられた新商品の販売が開始したのだったか。
 きっと、刻陽生で賑わっているだろうカフェの様子を思い浮かべてから空葉はくすりと笑みを浮かべた。
 来週には春休みが来る。刻陽学園の生徒会は来年度に向けての準備に忙しなく走り回っているが、進学を伴わない学生達にとっては僅かな休息の時である。
 四月の第二週になれば新たな学年での生活が始まるのだ。
 焼き立てのクロワッサンの香りを漂わせたパン屋に視線を奪われた空葉と擦れ違ったのは一人の少年であった。
「あーーっ! ドデカイジャーのロボ売ってる!」
 眸を煌めかせた巳笠 烈斗r2n000033は家電量販店にでかでかと展示されたディスプレイを指差した。
 新商品と銘打たれた合体ロボット玩具はそれなりの価格帯である。まだ幼い少年にとっては手も届かぬ品だろう。
「お小遣い……ウッ……」
 じゃらじゃらと小銭の音を響かせる小さな財布を手にしていた烈斗はがっくりと肩を落とした。
 可愛らしいロボットのキャラクター財布の中身はそれ程多くは無い。
「あれ、あなた……」
 ちら、と烈斗の様子を一瞥した中学生の少年は「それでは買えないだろうに」とぶつぶつと呟いていた。
「えっ、じゃあ兄ちゃんも出してくれよ! そしたら一緒に買えるだろ?」
「ヒェッ……え? は? いや、無理でしょ。
 無理、むり、そもそも、ぼくのお小遣い、そんな高くないですし、てか、初対面じゃん。え……こわ……」
 怯えた表情をした神寺 一弥r2n000019に烈斗はきょとんとしてから首を傾いだ。
 何故かとても怯えていて、それでいて失礼なことを言っている気がする――そんな彼は刻陽学園中等部の生徒会書記なのだ。
 生徒会の備品を購入するために一弥は『苦手な女の子』と一緒に買い出しに来た。
 生徒会役員ではないが「私も手伝うよ~! 暇だしさ~!」とオフシーズンを謳歌する『庶務役』の彼女はパン屋の香りに誘われて突撃していったのだ。
 置いてけぼりになった一弥に「兄ちゃん、迷子?」と烈斗は不憫そうに声を掛けた。
「ち、ちちちち、違うけど? ぼくもあのロボット買おうかなって思っただけだけど!?」
「え、買ったら見せてよ!」
「ハッ? いや、本当に買わないけど、いや、ま、まあ、良いよ!?」
「じゃあ、行こうぜ!」
 手をぐいぐいと引いた烈斗に『まずい、そんなに持ち合わせがない』と烈斗は慌てた。
 何とかこの少年を丸め込まねば。そんな事を考えた一弥の前に一人の少女が佇んでいる。
 黒髪を纏め上げ、帽子を被った小さな少女だ。年の頃は10代半ばも満たぬほどだろうか。
「何を揉めて居るのじゃ? あのロボットが欲しいとか聞こえたが……買えばよかろうに」
 やけに尊大な態度の少女はふんわりとしたスカートにチャイナボタンのブラウスで如何にも良家の子女といった容貌だ。
「兄ちゃんが買うって」
「この小童クソガキが?」
 ――何故、こんな少女に『小童クソガキ』呼ばわりされなくてはならないのか。
 一弥は不機嫌を前面に押し出した。少女――実は少女ではない。華氷 ヒメリr2n000018という女には謎が多いのだ――はくつくつと喉を鳴らして笑ってから「待っておれ」と言った。
 背後に立っていた黒服の男に目線だけでの合図を送った彼女は、彼が直ぐさまに購入してきた二体のロボットを烈斗と一弥のそれぞれに渡し「大事にしろよ、小童クソガキ」と楽しげに笑った。
「わあ、有り難う! えーと……ねえちゃん!」
「い、いッやあ……その……知らない人から貰うとか……ちょっと……ダメですし……」
 声を上擦らせながら言う一弥とは対照的に嬉しそうに烈斗は笑った。一弥にとっては『ヤクザみたいなやばい奴を連れてるお姫様』という強烈な印象が残り、烈斗にとっては『何かロボットをくれた人』という何とも可愛らしい印象がこの時に植付けられた――と、言っても、その記憶もいつかの日には薄れてしまうのだろうが。
「構わぬ。わらわの気紛れよ。本当に貸し借りをなくしたくば中華街に来ると良いからな。
 ……うむ、小童クソガキは好い目をしておるしな。ではの」
 さっさと去って行く少女の後ろ姿を眺めてから「そんなのRPGでしか言われたことないんスけど」と一弥はぼんやりと呟いた。
「一弥~~~! 何してんの? パン買えたよ? あれっ、ロボ持ってるじゃん!」
「あ、忍海さん、ウッス……」
「ロボット如何したの?」
苦手な女子』こと忍海夏帆(r2n000020の襲撃に一弥は思わずたじろいだ。
「知らないねーちゃんがくれた!」と楽しげに笑う烈斗に夏帆も「私もねー、パン貰ったんだよー!」と微笑む。
「なんか背の高い、高校生? 大学生? のお兄さんなんだけど、メロンパンを1つ多く買っちゃったって言ってたから!
 お礼しますねって言ったらね、別に良いよって。意地で名前は聞いたんだけど……『まささん』って呼んでくれて良いよって言ってたんだよねえ。また会えるかな」
「忍海さんなら会えるんじゃないスかね……」
 一弥はロボットをぎゅっと抱き締めてから「嘉神会長待ってますんで……」と身を縮こまらせた。

 ――刻陽学園に程近い公園では早咲きの桜の開花がもうすぐです。あと数日で……。

 ふと、夏帆は顔を上げてから「あの公園かあ」と呟いた。タイムカプセルを埋める『予定』の場所はきっと、桜も綺麗に咲いてくれるだろう。
 桜が咲くまでもう少し。
 卒業式と、春休み。
 それから、新学期まであと少し。
 四月になれば環境が変わってしまうけれど、その先で私達はどうしているだろうか?


 ※『天使化後』の名前が『キャラクター設定』から設定・入力できるようになりました。


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