豊穣鬼神・魂


『アレクシス・アハスヴェールはゴミですよゴミ。あの男は本当にダメ。
 まぁ今更、そんな事を言わなくても貴方も分かっている事でしょうがね?
 はーホントクソ。ゴミ。負けたのは未だにイライラしますね』
「……」
 アレクシスの権能内。その渦中にて奇跡的に意志が浮上した魂(r2p000385)の残滓が時の狭間で、先代アーカディアVミスティティアと語らっていた。
 未だ魂が完全に吸収されていないのは、アレクシスが不完全主天使相応である事と……現在進行形で降りかかってきているが要因だ。が、やはりソレでも結局は時間の問題である。
 魂はいずれ消えるだろう。そもそも彼は既に死んでいるといっていい。
 もう彼が生き残る道はないのだ。
 ……故、魂は
 最後の機を。最期の――刹那を。
『――しかし? 誤解してはならない所が一つある。
 もしアレがあらゆる万難を排し、望みを叶える事が出来たならば。
 本当に神になる事が出来たならば。
 その時、全世界に恐怖政治が敷かれるでしょう。
 築かれるのはユートピア楽園ではなくディストピア反理想郷だ』
「だろうな。僕もそう思う」
『……が。アレクシスは無意味にサディストという訳ではない。
 自分を崇拝し、従順な存在に関しては極めて寛容的だ。
 アレクシスに逆らわないなら――その治世を是とする者にとっては――真実、楽園と言える。つまりは……
 第五熾天使アレクシスは冷酷だ。とても善人ではない。
 だが……善人ではないが、彼が抱く夢まで万人にとっての悪かは話が別である。
 アレクシスの独善によって救われる者も確かにいるだろう。
 冷酷だが残忍ではなく。傲慢だが寛容でもある。
 アレはそういう神だ。だからこそ――
『私はかつて、アレに敗れた』
 ミスティティアは語り続ける。
『しかし敗北には納得している。
 同時に、アレの夢想の果ては左程悪くないものでは――とも。
 貴方はどうです? 貴方も、アレクシスの一部として絶対秩序を構築する一片となるのも……悪くないのではありませんか? ん?』
「……つまり、と?」
『やや粗暴な言い方ですが、まぁそういう事です。そうしてくれれば手間も負荷もない』
 さっきからミスティティアがわざわざ魂と語り合っていたのは戯れ……という訳ではなく、先代なりのであったのだろう。魂を強引に溶かす事も出来るのだが、それはアレクシスの権能行使の負担になりかねない。
 故に魂が自然に溶ければ良し。或いは魂が自ら受け入れて消えるの良し。
 その一時が訪れるのを見届けんとしているのだ。
 ……よいではないか、絶対秩序。
 愚か者のいない純白の世界。究極の管理による静寂の平和。
 ソレが嫌だというのなら――まぁ仕方ないが?
「話は分かった」
 故。魂は
「アレクシスの治世は、それはそれで悪くない所はあるのだろう。
 
 だが――アレクシスには決して出来ない事がある」
『ほう、それは?』
「アレクシスに菊や春香……友らの笑顔は創れぬだろ?」
 魂の脳裏に思い描いたのは……幾人もの知古らの顔、だ。
 皆との日々が思い返される。あぁ掛け替えのない時間だった。
 だから認めがたい。アレクシスは自身の理想郷の為、全てを塵芥と断ずる男だ。
 ――ふざけるな。
「アレクシスの作り上げる平和は、奴にとって価値のあるものだけで構築される世界だ」
 それを地獄と言わずして、なんと言う。
 鬼は、地獄に住まう者であるが。しかし鬼とて住みたい地獄は選ぶのだよ。
 故にこそ高らかに! あぁ、

「嫌だね、となッ!」

 お前らは斬り捨てる。お前らが認めない全てを。お前らが知らない全てを。
 だからこそ知れ。塵芥と蔑んだ者達の抱く、信念と――命の輝きを!!
 これが。我の……真実、最後の昇華!

 ――鬼魂開放コードブレイク

『……! これは――最後の足掻き、ですか!
 しかし、貴方のソレを座して見ているとでも!』
 それは魂の切なる願い。
 自らの最後の欠片残滓を燃やしてでも実現せんとする今際の灯。
 アレクシスの権能内で、尋常ならざる凄烈な光が煌めいた――
 されどミスティティアは神速の勢いで対処に回る。
 信念? 結構結構。だが命一つの抵抗如き押し潰してくれる。こうなってしまったのなら、本体アレクシスへの負荷考慮よりも、抑え込む方が優先だ。
 複数の防御型権能を展開。魂の懸命なる干渉を、強引にでも封じ込もう。
 たかが残滓に好き勝手などさせぬ――
『……何ッ!? 封鎖しきれない!? なぜ!!?』
「――鬼魂に誓う。どうやら、今の儘応えてくれるようだな」
 防御が間に合わない。いや防御をがある……!?
 ――それは元々魂が持っていた異能二つ。
 『鬼握おにぎり』と『鬼魂に誓うそのてにつかむ』だ。現在はアレクシスに吸収されたとはいえ、未だ魂との繋がり在りしソレらが応えんとしている。或いは異能が拒絶しているのだろうか――
 アレクシスが自らの権能の一つとして組み込んで。
 実際に行使までしているからこそ深く根差してしまっている。止められない!
 あぁ。これが最後の御業と成ろう。
 だからこそ共に往く。
 アレクシスを内から――襤褸にしてみせる!
『よせ……!』
「何を焦る! 宣言しただろう! !」
 笑う。笑う。どこまでも面白おかしいように。
 駆け抜けよう、最後の旅路だ。望みはただ、あと一つ――!



「――?」
 瞬間。アレクシスの貌が明確に歪んだ。
 知らぬ。分からぬ。なんだ、!?
 生涯初。未知の感覚がアレクシスの内から爆ぜて――!
「ぐ、ぅ、ぅううウ――ッ!?」
「ああ、あぁ!! やっと!! やっとだな、第五熾天使アレクシス!!」
「貴方は……馬鹿なッ! このような事が!!」
「――魂!」
「魂、くん!」
 。魂がアレクシスの内を突き破り、現出した――!
 さらば蘇芳 菊蝶(r2p000425)に杜里 春香(r2p000169)は思わず彼の名を口にしよう。
 あぁ魂。ようやくその手を引っ張る事が出来たと――
 ……しかし。彼の身は実体に非ず。
 今にも消えんとする……揺らめく霊体のような、であった。
 元より死間際の身の奇跡。これが限界であったのだ。
 消える。消えてしまう。命を賭した決意コードブレイクによって最早猶予は無い。
 だから――
「――延長戦だ」
 万感の思いを込めた一撃を放とう。
 彼の五指に宿るは、生涯最高の一撃。
 文字通り命を込めたソレをなんの躊躇もなく――
「貴様ァアアアアッ!!」
「どうした、笑え! いつものようにな!
 我は魂! 鬼の魂! 貴様の死神……
 豊穣鬼神 魂であるッ!」
 アレクシスの貌に叩き込んでやった!
 殴り飛ばされた貌を思わず抑え叫ぶアレクシス。
 直後、魂の身が硝子の様に砕け散っていく。
 欠片となり、砂粒の如くまで消え失せ。風に蕩け消えていく。
 もう一度、皆と共に戦えれば良かったが……そこまでは出来ぬ、か。
 あぁ、だが……
「――――」
 最後に意地は通せたと、彼は確信しえた。
「――――我らの勝ちだ」
 森羅万象、自由であれ。
 友らの行く末に、祝福を。
 ……相棒よ、もしも来世があるのなら、また会おう。
 百万の時の彼方、幾星霜の果てであろうと。夢を叶えたならば。
 願いを告げた――あの海で。

 ……瞬くような刹那の奇跡。その末に魂は――この世から完全に消失した。

「お、のれ……! ミスティティア……!! これはどういう――!!」
 驚愕。激憤。焦燥。困惑。
 魂が……喰らったはずの塵芥が何故このような。あまつさえ私に拳を、だと――?
 自らが今どういう精神状態なのか。その程度すらアレクシスは測れない。
 
 だがそれでも、しかと分かる事が一つだけある。それは――
「……! 馬鹿な、我が権能が…………!?」
 『森羅万象の理よアーカイバ・グ、我が手中たれランドレコード』に亀裂が走っている事だ。アレクシスの有する無数の権能が……! 行使出来ぬとまでは言わないが、その出力に影響が生じているのは間違いない。
 あり得ない。こんな事は、起こりえない。
 今まで一度もこんな異常事態が生じた事などない。
 馬鹿な馬鹿な馬鹿な――
「冗談ではない……!」
 だが、まだだ。
 ソドムゴモラは健在。あの権能が完全顕現すれば全てはひっくり返る。
 万万が一の場合はセントラル・テミスもある。アレを使うのはの話だが――
 いずれにせよ、まだだ。!!
 こんな程度、小突いて吹き飛ばしてみせますよ!
 でなくば……あのに笑われる――!

「平伏せよッ! 私こそが――真実、正しき神なのだ!!」

 その時。霊峰富士が、再び噴火した。
 今までよりも更に大きい鳴動と共に……!
『前線のレイヴンズ、聞こえるか! 霊峰富士の稼働が、頂点に達そうとしている……!
 だがほんの微かにだが、富士への神秘的干渉速度も澱んでいる!!』
 さればオベリスクが大量破壊され、通じるように成り始めた無線越しに、レイライン攻撃の指揮を執っていた棟耶 匠(r2n000068)の言が突き走った。つまり。
『まだ間に合います! アレクシスを打倒すれば、富士は鎮静に向かうはずです!
 あと一歩、あともう少しだけ――皆さんの力を貸してください!!』
 同時に、嘉神 ハク(r2n000008)も声を張り上げる。
 
 アレクシスが揺らいでいるのだ。無論、未だ油断できる存在ではない、が。
 魂の最後の輝きを見て、託された想いを無為になど出来る筈――あるまいよ。
 故に、ハクは叫ぼう。
 極大の神秘を身に纏い。邪魔者どもを遂に排さんと動き出す。
 K.Y.R.I.E.が打倒し、乗り越えるべきその個体の名を! 改めて!

『位階反応、熾天使セラフ
 識別名『アーカディアV』、アレクシス・アハスヴェール――来ますッ!!』


 ※魂(r2p000385)がアレクシスの内部でコードブレイクを発生させ、完全消失しました――!
 アレクシスの戦場が佳境に至っています!!

⛄ウィンターボイス2025⛄

シーズンテーマノベル『鶫は鳴いていたか』

🎄クリスマスピンナップ2053🎄