支配解放・新生の貌面
絶対が崩れる。
アレクシスの権能に亀裂が入る異常事態……
ソレを観測しえたのはK.Y.R.I.E.だけではなく――
「馬鹿な。アレクシス様の身に異変が……!!?」
天使側も、であった。声を荒げるは権天使ロドリアだ。
彼女はアレクシスを護衛する天使が一人。だが……その護衛戦力の層にも徐々に陰りが見え始めていた。
能天使ヴァルトルーデは主の為、血肉の一片となり。
権天使アルヴレッド、リーオンはレイヴンズの猛攻により失陥した。
アレクシスを護衛する直轄戦力の内、指揮官と呼べる層の残存は彼女を除けば――
「力天使様、この事態は尋常ではありませんッ!
急ぎ猊下の下へ馳せ参じましょう!!」
『……』
「――力天使様!」
後は、力天使たるりもこん(r2p005402)だけ、だ。
天使にとっての幸いとして、りもこんの余力は未だ大きく残っている。それはなり立てとは言え、彼自身の力の方向性が守護に優れていたからだろう。人の時から比べて、力天使としての出力も加わっているのだ。ならば例えレイヴンズの攻勢を受けようと容易く崩せるような存在ではない。
彼がいれば十分以上に戦える。
力天使はいずれも強大なのだから。故に彼女は前線に残存する天使級、大天使級を再編成し主の護衛に駆けつけんと画策。偉大なる神の為、身命を賭そう。
ソドムゴモラの完全顕現まで保てば状況などすぐに引っ繰り返せるのだから!
……だが。
(魂さん――アンタ、やったのか? あの状況から。本当に?)
りもこんの心境は、それ所ではなかった。
あり得ぬモノを見た。見捨てざるを得なかった存在の輝きを見た。
朽ち果てた筈だ――そうなってしまったと思っていた。なのに――
――何を呆けた面をしている。
瞬間。りもこんの脳裏に……声が響いた。
馬鹿な。聞き間違いでなければ、これは魂(r2p000385)の――
――やはり似合わんな、その仮面。
――脱ぎ捨てろ。己を晒せ。好きにやれ、友よ。
――お前は自由だ。
『――――!』
彼の声が……意志が届くはずがない。彼はアレクシスの傍にいて、散ったのだから。
それは幻の声だったのか?
それとも消えゆく者の最後の一片が真に届く奇跡でも生じたのか?
分からない。だが構わない。重要なのはただ一つ――!
『ぉぉおおおお――ッ!!』
吼え立て叫び。今、一人の天使の呪縛が解き放たれるッ!
瞬間。宙に彼の操る盾剣の軌道が描かれよう。
それは天より迫るパールコースト砲撃に対処する為ではなく。
ソドムゴモラ影響の一端たる、噴石ら天災を砕き往く為のモノだった。
「力天使様……なにを!」
驚愕せし権天使ロドリア。それも無理のない事だ。
今のりもこんの行動は明確な造反行為なのだから。
されど彼は頓着しない。駆け抜ける。今、彼は自由になったのだから――!
――『我が裁決に従え』
パノプティコンの一件の際、アレクシスと結んだ……いや結ばされてしまった強固な契約権能が常に彼を縛り続けていたのだ。当然ながらソレは到底崩せるようなものではない。熾天使との盟約は絶対だ。破るも解くも無謀の彼方にある。
だがアレクシスが盤石でなくなったのなら、話は違う。
魂の命を懸けた行動により権能行使に揺らぎが走っている。『我が裁決に従え』もまた例外ではなく……そしてアレクシスには明確に動揺した瞬間があった。
その一瞬。事態を把握し、態勢を整えんとする、ほんの一時。
己が脳裏に響いた声に従い――りもこんは契約権能に全霊で抗った。
結果として亀裂を広げ、自らの行動自由を手に入れる事が叶ったのである!
『ったく、散々暴れさせてもらった後にこうとは……顔向け出来ねぇったらありゃしねぇ……!』
とは言えそれは魂の行動のみの結果に非ず。
契約破りを成し得る事が出来たのは『我が裁決に従え』に干渉しようと試みた……レイヴンズの尽力もあったが故にこそ、だ。
りもこんに宿る鎖を引き千切らんと……朝月 玄夜(r2p001149)やペネロペ・三要(r2p000025)が。
夜神 ステラ(r2p002295)に音喰 禊(r2p001565)が。明星 和心(r2p002057)にジャック・ドーニング(r2p001686)、そして東雲・春斗(r2p000531)と明日見原 真奈未(r2p000455)達が――その道を繋がんと奔走した。
結果として、仕込まれていた迎撃型権能『深淵の瞳』により弾かれたとはいえ、備えを発動させたという事自体に意味があったのだ。
アレクシスのリソースとて無限ではなく、負荷を与えれば歪みは生じる。
皆が紡いだのだ。皆で繋いだのだ。
ならば――
彼が成し。皆がこれだけ手を伸ばしてくれたならば――
その意に応えぬ道などあるまいよ。
『……あぁ、全く。なぁ?』
……誰かの命令に従う事。ただそれだけの存在である事。
その一時に、心地の良さを感じなかった訳ではない。
なぜならそれは……かつての己が願った、微かな夢であったから。
感謝はしている。だが――
――天使に至り、決別の果ての別れ……そんなものは認めがたい!
――苦しくても、逃げないで。
皆にあんな事を言われたら……あぁ!
『悪いな、猊下。やっぱり――アンタの道には従えねぇよッ!!』
全てに絶望し、眼を逸らし。
心の奥底に逃げている暇なんて、ないもんだ!
『さぁって! 今更どのツラ下げて……なんて言われそうだが……
何言われるのも仕方ねぇッ、その上でやるだけやらせてもらいますか!』
既に決意している。俺は皆を救わせてもらうと。
今更命を惜しむ理由もない。自らの心向くままに動こう。
天使化の毒に侵されても尚、己は己であると示す為。
――呪縛から解き放たれた仮面の天使は、今こそ新生する。
再び人の側にて、力を振るう……なんの気兼ねも要らぬ、その心地に身を委ねられるのだから! 今こそ、その仮面の下に生気が宿る――!
そして、そうであるならば。人に与する事叶うなら。
皆に一刻も早く伝えねばならない事がある。
アレクシスの秘儀。その真の権能――
『森羅万象の理よ、我が手中たれ』の情報を!
※『力天使りもこん』が契約権能を打ち破り、アレクシス陣営から離反しました――!
※アレクシスの戦場が佳境に至っています!!

