彼方に手を伸ばし


 ――大量のフレッシュの到来。
 膨大に増えたマシロ市の人口をカバーする為にもK.Y.R.I.E.の作戦が始動してより暫く。一連の流れはひとまずは順調であった。天使の撃退、サヴェージの討伐などなど……K.Y.R.I.E.より提示されている作戦は多岐に及ぶが、フレッシュを含めた多くの能力者レイヴンズ達が協力の意思を表明してくれている。
 無論……作戦が始まってはいる訳だが、まだ報告書は挙がってきていない段階だ。
 故にこそ正式な結果が出てくるまでどうなるかは油断出来ない訳だが――

「まぁ、とりあえずは能力者達が慣れてくれれば、って所なのかねぇ」
「涼介・マクスウェルや王条かぐら辺りはそう考えておろうな――
 わらわとしても異はない。誰も彼も必要であろう。まずは動ける環境が、な」

 マシロ市北部側。セントラル・カテドラル付近に存在する中華街にて言を交わせていたのは来栖 正孝(r2n000072)に華氷 ヒメリ(r2n000018)であった。正孝は一応K.Y.R.I.E.に籍を宿す堕天使である、が。『将来有望な若者の役目を奪っちゃならんだろう』などと述べて作戦には参加せず、皆を送り出す立場を取っていようか――
「で、貴様はまた酒か? 小童クソガキめ」
「ああ。行きつけの酒屋で随分と珍しい合成酒が仕入れられたそうでな――」
「珍しい? 殊更に『質の悪い』の間違いじゃろ。
 まぁ貴様が自分をどう扱うがわらわは構わんがのぅ。
 中華街で倒れるのだけは控えよ。始末に困るからの――可燃物の」
「肝に免じておくさ」
 ……どちらかと言うと正孝は妙に無気力なだけのようにも見える、が。
 いつもの事だとヒメリは煙管から煙を揺蕩わす。それよりも。
「龍華会から依頼は出さないのかい?」
「ふむ、今の所は、な。わらわ、あうとろーじゃし? この都市を知る必要もあろうよ。
 ……なぁに。時が満ち、必要があれば声を掛ける事もあろうて」
「レイヴンズはどうにも中華街にも興味がある連中がいるみたいだからなぁ。その時はよしなに頼むよ」
「貴様――そんな感じに他人への気遣いが出来たのか。驚きじゃの。
 てっきり気も回せぬのべっとした木偶の坊やと思って居ったんじゃが……」
「気遣いって程のつもりはないんだが……」
 やや困ったような表情を見せる正孝。
 ――ヒメリは中華街の元締め。龍華ロンファ会の会長だ。
 言うなれば中華街の、影の頂点に立っている人物と言える。もしも今後、龍華会からなにかK.Y.R.I.E.に協力要請があった場合は彼女が大なり小なり関わっていると見ていいだろう存在。
 が。少なくとも今、ヒメリは無用にレイヴンズを呼びたてるつもりは無かった。
 彼らがどれほどに有力か。それを見極め――そして、己達と関わっても彼等が後悔せぬかを確認してからだ。
 『龍妃』として彼女には己がファミリーを護るべき立場があるのだから。
「祈ってはやるがの。連中が有益である事は」
「ほう――龍妃の慈悲が見れるとは。お優しい」
「戯け。連中が有益であるのならば、切り拓かれる道もあるからじゃ」
 ヒメリの小さな口元から、煙が吐息と共に旅立とうか。
 緩やかな風が吹けば乗りながらも……宙に蕩ける。
 ……窓の外見れば愛しい中華街の光景が見えようか。
 されど。ここは閉じられた空間だ。
 誰も行けない。中華街の話ではなくマシロ市の外になど、という事だ。
 マシロ市内であれば治安は保たれている訳だが。
 マシロ市外に出た途端、なんの保証も一切ない。
 安全も。食料も。生命も。
 東を見ればかつて東京湾と呼ばれた海が広がっており。その更に先には太平洋があるのだろう――が。例えば舟をもってして大海原を航海するなど夢のまた夢。
 ドゥームスデイ以降、アーカディア11の活動が停止し人類軍が名ばかりとはいえ勝利を収めてから――天使の活動はかなり消極的になっている。少なくとも大規模に統率されて動いている連中は確認されていない。
 だがそれでも駆逐された訳ではなく。更には、世界各地に生じている変異体の中には恐ろしい連中もいるのだ。視界も聞かぬ海の底にどんな化け物が眠っているかも知れたものではない。中華街の噂話には、ある嵐の日……海の彼方に建物すら凌駕するを見たという話もある。
 それが真か嘘かはともかく。
 海も。空も。大地も。
 危険極まりないのが今の世界だ。
 平穏の中の閉じられた楽園がマシロ市だ。
 此処で一生を過ごすつもりならいいが。
「折角ならば、夢を見させてやりたいだろう」
 再びに人類が謳歌できる平穏を。
 どこまでも続くかの様な大地を、海を、空を。
 取り戻したいではないか。
 夢を見させてやりたいではないか。
 この小さな箱庭しか知らぬ者達に。
「龍華会の者達に?」
「わらわらの害にならぬ者なら、誰が見ても構わんじゃろう」
「やはりお優しいこって」
「喰らうぞ小童クソガキ
 窓際。三度目の、煙管からの煙を旅立たせたヒメリのソレは、天へと向かう。
 蕩けながらも広い、広い空に向かうように。
 果てしない彼方を夢見るように。

 実に。晴れやかな日の事であった。

※シナリオが順次出発しています! 結果につきましてはお待ちください!
※テーマノベル『ようこそK.Y.R.I.E.へ!』が開始されました。
※座標消失より復帰したフレッシュが2052年のマシロ市に合流しました!
  現在、そして以後の時間軸は5/4(リアルタイム)に合流しています。

※参考として公式ノベルもご確認下さい!

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